むーしゅ

パディントンのむーしゅのレビュー・感想・評価

パディントン(2014年製作の映画)
3.3
 イギリスの作家Michael Bondの児童文学作品「くまのパディントン」を原作にした作品。監督のPaul Kingは本シリーズのヒットにより、次回作はディズニーの実写版「ピノキオ」、そして「チャーリーとチョコレート工場」のウィリー・ウォンカとウンパルンパの出会いを描いた作品など話題作の監督担当が続く予定。

 イギリス人冒険家のモンゴメリーは、ペルーで知性のあるクマの夫婦に遭遇し人間の言葉を教え、いつかイギリスに遊びに来るよう約束し別れる。その後、年老いたクマの夫婦から話を聞いた甥の熊は船に乗りついにロンドンにたどり着くが、頼みの綱のモンゴメリーは見つからず夜のパディントン駅で途方に暮れてしまう。そこへロンドンに住むブラウン一家が通りかかり、母親であるメアリーはひとりぼっちのクマに駅の名前からパディントンと名付け、彼が住処を見つけられるまで家に住まわせてあげることにするのだが・・・という話。パディントンってペルー出身何ですね。てっきり動物園育ちとかだと思っていたので意外と衝撃のスタートでした。

 さて物語自体は直線的でなんの捻りもありませんが、本作は作品全体で色に対するこだわりが強く、そこが良かったです。英国と言えば曇り&雨のイメージがどうしても強く、ハリー・ポッターシリーズでもひたすら薄暗い映像が続いていましたが、本作では主人公パディントンの服に含まれる赤と青を美しく見せるため映像の彩度をあげています。その効果により町の風景が華やかで、ロンドンって本当はカラフルな街だったのねと改めて気づかされます。また出演者の衣装とセットにはかなりこだわっており、例えば駅で出会ったシーンでは、パディントンの逆スタイルである青い帽子に真っ赤なコートで登場するメアリーと赤いダウンベストの息子ジャナサン、対して父はグレーのコートに青いマフラー、娘ジュディはグレーのジャケットに青のヘッドフォンと、登場人物の衣装の色をしっかり分けています。この色分けはパディントンとの心の距離を示しており、実際物語の最後には全員が赤い服に代わっており、家族全員が彼のことを必要だと認識したことが分かります。また小道具類やセットも赤と青で統一感を持たせており、青い壁に赤いカーテンなどなかなか派手な色使いでも違和感無く溶け込ませています。

 出演者に関して面白いのは、主人公パディントンの声を最終的にはBen Whishawが担当していますが、実は当初はColin Firthが担当する予定だったそう。彼はGoProカメラをつけて台詞を話すときの表情を撮影することでパディントンの表情作りにも協力しており、降板後はそこからやり直しになったようです。本人も了承の上での降板のようですが、そもそもColin Firthでイメージに全く合わないことくらい誰でもわかると思いますけどね。明らかに神経質な声質でタイプライターの音のような独特な話し方をするColin Firthの声に、プーさん同様おっとり系の熊であるパディントンが合うわけありません。演じるならHugh Bonnevilleが演じた父親役しかそもそもありえないはずで、とはいえ父親Hugh Bonnevilleは批判的立場から次第に打ち解けていく表情の変化などが絶妙だったので、結果的にそこも既に埋まっています。ちなみに最終的にパディントンを演じることになったBen Whishawは、Colin Firthよりはましということで、可もなく不可もなくでした。その他でいえば「シェイプ・オブ・ウォーター」でお馴染みのSally Hawkinsが母親役で出演していますが、あちらを先に見てしまうと優しい母親が似合わなすぎて面白いです。独特の不思議ちゃんオーラが、熊を拾ってしまう不思議な女性というイメージには合いますが、彼女に家族がいるようにはとても見えません。孤独な独身女性が熊を拾うというならありえるのですが、これは「シェイプ・オブ・ウォーター」ですね。

 ちなみにどうでも良いことですが、この映画の公開後英国ではマーマレードがバカ売れしたそうです。確かにここまで推されると食べたくなりますね。全体的にはいたって普通ですが、これだけ有名なキャラクターを実写化させておいて、これだけうーむと思うポイントがないこと自体が逆に凄いことかもしれない、という映画でした。
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