葛西ロボ

複製された男の葛西ロボのネタバレレビュー・内容・結末

複製された男(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

「複製された男」という邦題と「カオスとは未解読の秩序である」とかいう思わせぶりなエピグラフにまんまと騙されて、途中までずっとSF的解釈をしていたし、もうちょっと物理学の話出てこないかな~とか思ってたのに、結局また自我の分裂ものじゃないかよ!
 情報量がやたら少ない上に、本人たちが原因を追究しようとしないから、だんだん考える気が無くなってミステリアスな雰囲気に浸るだけになっていったけど、この雰囲気がなかなか心地よくて、最後もなかなかパンチの効いた終わり方だったと思う。
 黄色みがかった映像も、アダムの車が汚いのを見た時は黄砂でも飛んでんのか?と思ってしまったけど、映画全体の寂びれた雰囲気を上手く形づくっている。巨大蜘蛛のシーンなんか、こういう静謐な雰囲気のモンスター映画撮ってくれないかなって思ってしまった。
 ちなみに僕が途中までどういうSF的考察をしていたかというと、端的に言えば「世界五分前仮説」です。この世界はできたばかりで、それ以前の記憶や歴史も作られたもの。宇宙はエントロピー増大の法則でカオスに向かっていくが、「無限の猿定理」で秩序ある宇宙が作られてしまうこともある。それがこのできたばかりの宇宙。しかし、この世界にもいくつかの綻びがあって、それがアダムとアンソニーというまったく同じ人間が作られてしまったという点。とまあ、こんな話になったらそれこそ収拾つかないですけどね……。
 自我分裂ものとしてもドッペルゲンガーものとしても目新しいアイデアや盛り上がりはないけど、映像とジェイク・ギレンホールのミステリアスな雰囲気に90分という短さも相まって、八分目くらいの適度な満足感で映画館を出た。回らないけど庶民的な寿司屋でランチを食べたような、そこそこ流行っている洋食店で1000円しないパスタを食べたような感じ。特にたとえる必要も無いと思うけど。