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KANO 1931海の向こうの甲子園のくりふのレビュー・感想・評価

KANO 1931海の向こうの甲子園(2014年製作の映画)
4.0
【泥のち晴れ】

ウェイ・ダーション製作脚本、という興味から行きましたが『セデック・バレ』と裏表のようでした。KANOの甲子園行きは、あの霧社事件の翌年で、同時期の物語なのですね。

こちらも泥まみれ汗まみれ、血まみれにもなりますが殺し合いはなく(笑)、台湾原住民と漢人と日本人とが、一つの球を追い一つになる瞬時の絆の映画。全体、お茶漬けサラサラな味わいでした。

監督が『セデック・バレ』でタイモ・ワリス役だったマー・ジーシアンだということも後で知り驚き。劇場映画は初だそうですが、堂々と撮っていて大したものです。

3時間は冗長ですが、野球のディテールを丁寧に追い、そこから面白くなるところは巧い。そのために長くなる分は仕方ないかな。最近の『42~世界を変えた男~』などはその辺りが不満でしたし。

あと全体、スッキリ物語が流れていくところは気持ちよいのですが、5W1Hで言うとWhyの部分が弱い。何故そうなるの?と引っかかってしまうところが幾つかありました。永瀬正敏演じる近藤監督が、過去から背負ったものも今一つ不透明だし。

ノスタルジー糖分は過多ですね。でもこの時代この話だと、台湾人にとっては『三丁目の夕日』的思い入れが籠るのかなあ…とは感じた。

人種差別への言及は一見、甘いですが、野球人、野球少年のスピリッツから見ているので世界観は損ねていませんね。野球の外からは、開戦後、日本軍の中に高砂義勇兵が混じっていることなどを、さりげなく見せていましたが。

但しそもそも、嘉義農林学校は人種を問わず生徒を集め、当時としては珍しい場所だったようですね。その中で、近藤監督が人種的特長を生かして選手を配置するのは面白かった。

『セデック・バレ』をみていると、台湾原住民は足が速い、というのにはメチャ納得。盗塁がよい見せ場になっていました。

灌漑事業を物語に含めたのは、映画的狙いはわかりました。バラバラだったチームが一つになる過程と、泥まみれの地が整備されていくことが同期され、出来上がった一直線の水路の先は甲子園!となりますからね。

でも、脚本的には馴染みがイマイチ。大沢たかおがいい人過ぎるし(笑)。

永瀬さんはあまり意識したことがなかったのですが、本作では存在感が生っぽく、ええ役者やなあ、と思った。ただ、近藤兵太郎という方は元名選手だったそうですが、永瀬さんは体育会系出身に見えず、そこは違和感ありましたね。

その他、CGの描写は軽いなあ、とか、言いたいことも色々ありましたが、欠点を忘れるほど鮮やかだったのが、映画を吹きぬけてゆく風の気持ちよさでした。自然が起こす風と球児たちが起こす風。これらを始終感じられ、映画館を心地よく、後にできたのでした。

<2015.3.26記>
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