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アメリカン・スリープオーバーのtntnのレビュー・感想・評価

5.0
今は亡き渋谷アップリンクで見てから、5年後に再鑑賞。映画とはタイミングであるという言葉に従うなら、多分これ以上ないタイミングで再鑑賞したと思う。それぐらい心に染み入る良い映画だった。
たった一夜の物語でありながら、青春時代を一通過点とする人生そのものの映画でもある。
主人公達に与えられた「夏休み最後の一晩をどこで過ごすのか」という問いは、選択と結果をめぐる人生の最初の試練である。
あり得るかもしれない可能性も、もうあり得ない可能性も、「絶対」などは存在せず、実る保証はどこにもない。さらに幻想は幻想でしかないから、現実から逃避するだけの目的で誰かを求めても何かを解決したことにはならない。
ただ、大人が目静まった夜に人の家をぐるぐる回るように、無数の可能性にトライするという選択権がいつでも誰にでも用意されていることもまた確かなのだ。
という人生哲学みたいなものを、基本的にはとてもシンプルな編集と、静謐な画面で語ってしまうのが素晴らしい。
スーパーで見惚れた金髪の女の子を追い求めるロブのエピソードは、サンダーバードの美女を追い求める『アメリカン・グラフィティ』のエピソードを彷彿とするし、なんならそれに対するしっかりとしたアンサーにもなっている。
夜って楽しい。人の家って面白い。
アメリカのこういう住宅街、死ぬまでに絶対行きたい。





夏休み最後の夜に「スリープオーバー(お泊まり会)」をする学生たちの群像劇。
といっても、こことここが繋がって〜みたいな展開で驚かせることはなくひたすらほぼ並列されるだけ。
セリフも少なく、そもそもほとんど何も起こらない作品ですが、何か心に残るものがありました。
登場人物全員の顔の「高級感の無さ(失礼)」が、リアルでした。
日本人からすると、アメリカの学生たちって憧れたりしますが、実際は超絶美形なんて中々いないですよね。

体育館から姉妹を連れ出して、ロッカールームで酒飲むシーン
友達のお姉さんと風呂場で話すシーン
ウォータースライダーの前で話すシーン
などなど、印象的なシーンがいっぱいあります。

映画評論家の町山智浩さんも指摘されてましたが、本作は大人が登場しません。
唯一登場する大人は爆睡してる。
そのためか、このスリープオーパーの夜が、非日常的なもの、とても美しく愛おしくそれでいて儚いものに感じられます。

だからこそ、ラストで急に喧騒と共に大量の大人達が映った時、
決して誰かが死んだり居なくなったりしたわけでもないのに、
決定的に時間が経過してしまった
あの愛おしいシーンは全て終わってしまった
あいつらはみんな成長してしまった
あの美しいスリープオーパーの夜は終わってしまって二度と帰ってこなくなってしまった

そんな気がして何かとてつもない喪失感に襲われました。
この「何かが確実に終わってしまったことによる喪失感」は、そのまま我々が映画を見て終わり劇場を後にすることともリンクします。

イットフォローズより好きです。
DVDが出る雰囲気が無さそうなのですが、アップリンクで再上映やるみたいなので是非見に行ってください。
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