キットカットガール

繕い裁つ人のキットカットガールのレビュー・感想・評価

繕い裁つ人(2015年製作の映画)
3.2
 年齢を重ねるごとに変化していく体型や気持ちに合わせて、繕い直していく。「着る人に寄り添って作られている」。その時々の自分にピッタリと合う服たちは、とても得難く贅沢なものとよく理解できる。そして、その時々の自分(変化)を肯定してくれているようで安心できる。服に自分を合わせるのではないから、変なストレスを要しない。しかし、いつもとは違った自身の一面を引き出してくれる点が、とっておきの服(一張羅)の魅力である。目をつむって口の中に入ったチーズケーキにだけ専念するように、単に消費するのではなく、その一着を纏う事のみを味わう。

 それにしても、私の好きな女優さんばかり出てくる。片桐はいりさん、黒木華さん、杉咲花さん、中尾ミエさん。

 また、原作者・池辺葵さん特有の視覚的な余白が、映画では会話の間やゆったりとした進行で再現・踏襲されていて、漫画同様、こうした静寂や空白の中に、観者は各々様々な事柄を見出せる。

 もちろん、本作を彩る洋服の数々は、どれも本当に素敵。テキスタイルの質感と柄が活きていて、大正時代を彷彿とさせる、モダンなシルエットやデザインが、非常に上品。なお、片桐はいりさんが経営している雑貨屋さんも素敵だ。マグカップを一つごとに収納するためのスペースからは、その物の為に存在しているという「物を大切にする精神」が窺える。

 一方で、先述の通り、テーマは良かったが、主演の配役と演技がどこかしっくり来なかった。

〈印象に残った言葉〉
「その人と共に無くなっていくものがあってもいいと思うんです」
「今生きているお客様の服は、今生きている私にしか作れないですもの」