Tully

マダム・イン・ニューヨークのTullyのレビュー・感想・評価

4.0
ガウリ・シンデー監督作。ニューヨークを舞台に、英語が話せないコンプレックスを克服すべく英会話学校に通い始めたインド人主婦の奮闘を描いたドラマ。インドの女流監督:ガウリ・シンデー&国民的女優:シュリデヴィがタッグを組んだ女性賛歌の傑作で、ボリウッド映画のお約束―「唐突な歌&ダンスシークエンス」の挿入を最小限に抑え、上質な人間ドラマでしっかり魅せていく作風が特長であります。忙しいサラリーマンの夫と二人の子供を抱えた専業主婦:シャシが姪の結婚式の手伝いをする為、家族より一足先に単身インドからニューヨークに渡る。家族の中でただ一人英語を話せないシャシは周囲の人々とコミュニケーションが上手く取れず、初めてのニューヨークで深い孤独と挫折を味わってしまう。そんな時、偶然英会話学校の広告を見つけたシャシは、家族には内緒で英語のレッスンを受ける決意を固めるという女性奮闘劇で、英語を話せないコンプレックスを抱えた主婦が同じ境遇の仲間達とのレッスンを通じて苦手な英語を習得&生きる自信を取り戻していく過程を感動的に描き上げています。本作を観て真っ先に連想するのはインド映画界の巨匠:サタジット・レイの古典的傑作『大都会』。1963年に製作された『大都会』は、銀行員の夫を持つ専業主婦が家族の反対を押し切ってセールスレディとして外に働きに出るというお話で、「男は外で働き、女は家庭を守ることに専念する」というインド社会の旧い価値観に挑戦する主婦の奮闘を描いた作品であります。本作の場合にも、インド社会の因習に倣って家庭に束縛されてきた主婦の、自由の国アメリカにおける英語習得に向けた奮闘を描いていて、本作と『大都会』は時代や国は違えど「女性の自立」をテーマにしている点で共通しています。英語が苦手な日本人は主人公に激しく感情移入してしまう作品で、中でもカフェに入店した主人公が英語で注文することができず周囲の人間から好奇の眼差しを浴びせられてしまうシーンや、英語が飛び交う夕食の席で居心地の悪さに耐え切れずその場を離れてしまうシーンには居た堪れない気持ちにさせられます。そして、英語を学ぶ過程で自信を回復していく主人公の奮闘と並行して、同じ英会話学校に通う人種もばらばらな気のいいレッスン仲間達との交流と友情や、主人公に恋心を抱く情熱的なフランス人シェフとの淡い恋模様もユーモラス&ロマンティックに活写されていて、笑いあり涙ありの上質な異国奮闘劇&女性賛歌に仕上がっています。
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