あなぐらむ

一条さゆり 濡れた欲情のあなぐらむのレビュー・感想・評価

一条さゆり 濡れた欲情(1972年製作の映画)
4.5
さて、いよいよアニバーサリーイヤー+1という事でロマンポルノ新作も製作されている訳だが。

この映画、当時のロマンポルノ裁判へのプロテスト作、と評価される事が多いが、もっと個的な、常に二番手で上に行けないカッコ悪い青春を、したたかに生きていく女の話だと思った。

伊佐山ひろ子が素晴らしい。キネ旬女優賞は伊達じゃない。スタイルの良さも目を惹くが、そのふてぶてしさ、女の、多分同姓の方が分かるだろう「嫌な所」までさらけ出す芝居度胸の良さ。脇に回る白川和子も貫禄。高橋明さんはこれも代表作だね。絵沢萠子さんも出演している。この伊佐山ひろ子のキャラ造形が、後の神代作の芹明香に引き継がれている感がある。

大阪(野田近辺)にロケした姫田真佐久の映像は、望遠を多用してライブ感を重視しつつ、時折映画的なショットをそっと差し込む形で緩急をつけ、ルポルタージュと虚構の間を往き来する。ナカナカ節に緋牡丹博徒、選曲の面白さに溜め息。

本作で貫禄を見せる白川和子にしても1972年はまだ24歳。こなしてきたピンク映画でのキャリア、アフレコなどは伊佐山さんより遥かにベテランではあるけれど、ほんと本作の、警察にしょっぴかれる前の明さんとの絡みなんてのは素晴らしい。

クライマックス、トランクに入った伊佐山ひろ子が坂を転がり落ちていく場面は、映画として非常に蠱惑的なスリルに満ちているんだが、これを80年代後半に小沼勝が「箱の中の女 処女いけにえ」で今度は箱がスキーで雪山を落ちるというのをやってる。ロマンポルノは面白いのはこういう、極めて映画的な事をやる所なのだ。

ところでうちの嫁さんは映画に関しては(ゴダール、ロメールが好きというのはあるが)基本そんなに掘り下げて見る人ではないのだが、俺が本作を見てる時に「この監督さん、(悶絶)どんでん返しの人だよね」って。「え?どして?」って聞くと「歩いてる画ばっか撮ってる。同んじだもん」鋭い人であった。