Mikiyoshi1986

実録・阿部定のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

実録・阿部定(1975年製作の映画)
3.2
大島渚「愛のコリーダ」の前年に公開された阿部定事件の映画化作品。
日活ロマンポルノの田中登監督が阿部定の強い情念にフォーカスを当てます。

「愛のコリーダ」では芸術性に秀でた愛慾の趣が印象的ですが、
本作は実録と謳うだけあって阿部定の内省に大変リアリティーがあり、美化されすぎていない作風に「あぁ、きっと本当にこんなふうだったんだろうな…」という淡く切ない思いが自然と溢れ出てきます。

また、本作では凶行から逮捕に至るまでの経過や定自身の生い立ちにも触れられ、
宮下順子が吉蔵に対する強い思いを代弁するかのように、見事に阿部定を演じきっています。
本当に阿部定本人に思えてくるくらいハマってる。

ちなみに生前(?)のご本人の映像が石井輝男監督の作品にも収められていますが、71年の失踪を最後に消息は不明。
87年頃までは吉蔵の命日になると墓に花が届けられ、送り主が阿部定じゃないか、それ以後亡くなったんじゃないかとの憶測もありますが、今となっては真相は闇の中です。

一生に一度愛した男を永遠に手に入れた彼女は、一体どこで何を思いながら人知れず余生を過ごしたのでしょうか。
そんな定さん、もしまだ存命ならば今月で111歳を迎えます。

一方、阿部定事件が大々的に報道された頃、岡山県のある農村で結核に苦しんでいた青年は本件に感化され、「いつか俺も阿部定みたいなすごいことをしちゃる…」と友人にこぼしていました。
そしてそのほぼ2年後、青年は本当に世界的にも類を見ない大事件を起こすわけですが…。
それはまた別のお話。
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