イチロヲ

実録・阿部定のイチロヲのレビュー・感想・評価

実録・阿部定(1975年製作の映画)
4.0
情夫(江角英明)との逢瀬により恍然自失となった女性(宮下順子)が、生命に関わるサディズム行為に手を染めてしまう。1936年に発生した「阿部定事件(局部ちょんぎり逃走事件)」を題材にしている、日活ロマンポルノ。

「快楽の極地を目指す=死地へと近づく」の方程式を根底にしている愛憎劇。阿部定の生い立ちが簡略化されているが、サディズムとフェティシズムが混在する精神状態を、ものの見事に表現している。

ふたりが引きこもる待合が主なる舞台。まるで盗撮映像のような生々しさの中で情交が繰り広げられ、仏教でいうところの「三昧」へと向かっていく過程が精緻に描かれている。とりわけ、阿部定の心情をうたっている挿入歌が面白い。

若い頃の阿部定の肖像画を見ると、本作の宮下順子とそっくりなことに気づかされる。個人的には「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」(石井輝男監督)の賀川雪絵版も捨てがたいが、本作における宮下順子の成りきり度合いもまた伝説級といえる。
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