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はなればなれにのemilyのレビュー・感想・評価

はなればなれに(2012年製作の映画)
3.8
パン職人志望の女性クロ、結婚を考えてた恋人と喧嘩別れした英斗、主演女優が降板し舞台自体が危うくなった脚本家豪、3人はひょんなことで車に乗り合わせ、海辺の閉鎖されてる旅館でひと時を過ごす。

建物の間でたばこを吸うクロ、パンを食べながら鏡ごしの接客。冒頭から少しズレた間を心地よく描写してくる。3人が出会うまでのドタバタ群集劇は、とにかく目まぐるしい。コメディタッチだが独自のリズムがあり、人の切り替えもスムーズかつユーモアがある。敢えて作り物の演劇のような雰囲気が皮肉に光り、いろんな人が巻き込まれて行くのが忙しい。

3人になってからはその構図や配置、色使いが印象的で目を引くものがある。3人居れば奥行き感がしっかり出て、何気なく座った3人でも考えられて配置されており、そこに赤などの差し色や大きく捉えた景色や空間で起こってる別の何かが、良いスパイスを与えてる。

それぞれのことをなにも知らない3人が、その価値観をいかに自然にリアリティをもって描写されてるのが、寝るとき明かりはどうするか?の問題である。真っ暗が良いもの、豆電球が良いもの、明るいのが良いものとちょうど3パターンあるので、三段階に各々が切り替えていくのを窓の外から眺めるのが非常に印象に残るシーンである。

それでも人は共存できる生き物であるさまをコミカルに描く。
はじめは室内でたばこ吸うのを嫌がっていた豪が、クロと同じようにタンスの中でたばこを吸うシーンには共存以上の交わりを感じる。

窓の中にいて実際にゲームでテニスをやってるふたりから、エアテニスのパスが出される。現実と夢物語が混合し、3人の構図も1人の侵入者により崩れ始める。同じ空間に居ても別々の思い思いのパンダンスをする4人。共存しながらも内側には誰も知らない自分がいる事、だからこそ誰かと関わらないと生きていけないことを思い知る。

一緒にいた時間がはなればなれの未来につながる。寄り道のように思える時間や、自分の人生に関わりのないように思える人との出会いが、意外と自分の人生に響いたりする。

また大事な人を大切にできなくなりかけたとき、距離をおけば窓の外から明かりをみるように客観的に関係を見つめられる。そうして当事者では気づかなかった事に気がついたりするものだ。
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