ブタブタ

屋根裏の散歩者のブタブタのレビュー・感想・評価

屋根裏の散歩者(1992年製作の映画)
4.0
乱歩作品の中でも何度も映像化されてる『屋根裏の散歩者』
実相寺昭雄監督✖️嶋田久作=明智小五郎のシリーズ第一弾。
多くの俳優が「明智小五郎」を演じてるけど自分の中でのベストは本作及び次作、実相寺昭雄監督による乱歩二部作の嶋田久作。
長身痩躯で怪物的雰囲気と超人的頭脳を持つ男。
その双璧が『江戸川乱歩短篇集』の満島ひかりの「男でも女でもない」明智小五郎。
アニメ『乱歩奇譚』のキャッチコピー「退屈に殺される」は寧ろこっちの作品にあってる。
遊民宿の東栄館には奇妙な住人達が揃っている。
外では普通のマトモな人間の顔をしていても各自の部屋の中ではSM、レズ、スカトロ、コスプレ撮影、変態プレイ三昧で東栄館の女中も部屋を廻って掃除しながら小銭を盗み、ここを仕事部屋にする女脚本家は住人達とフリーセックス状態。
隣室に越してきた宮崎ますみ演じるプロのバイオリニストのお嬢様も実はお嬢様でもバイオリニストでも何でもなく「狂人」である事が後で分かる。
そんな爛れきった東栄館の一室の住人・郷田三郎(三上博史)は押し入れの天井板を外し屋根裏の散歩して天井裏から住人達の狂態・痴態を覗き見るのが趣味。
そして天井の節穴から致死性モルヒネをたらして密室殺人、完全犯罪を計画する。
特に理由はない。
強いて言うなら退屈だったから。
この殺人計画も暇潰し以外の何物でもないという主人公の虚無的思考から始まった事であり、爛熟した大正末期という世相や全てがくだらなく意味の無いという厭世感やニヒリズム、更に東栄館という奇妙な住人達が集まって出来た一種の澱んだ空気が支配する異空間、その閉塞世界で繰り広げられる幻想的な屋根裏の散歩という奇行者による完全密室殺人の異様さと無意味さ。
実相寺昭雄監督のあのスタイリッシュな映像美、極限迄引いたりアップにしたり斜めに歪んだカメラワークによる非現実的世界。
そしてそんな一室に住む謎の住人・明智小五郎(嶋田久作)によって郷田三郎の完全殺人計画は見事に打ち砕かれる。
この頃の明智小五郎は探偵としてデビュー前の飽くまでも探偵趣味の変人・奇人であり、その捜査・推理の目的は殺人や犯罪を断罪するという正義からではなくて郷田三郎と同じく虚無的な厭世感から来る彼にとっては真実の探求という名を借りた暇潰し程度の価値しかない。
『帝都物語』で鮮烈なデビューを飾った嶋田久作を引き続き実相寺昭雄監督は作品を象徴するキャラクターとして起用。
加藤保憲が魔人なら異様な迄にその頭脳や推理力が特化した天才・明智小五郎は超人。
そしてこの明智小五郎は探偵というより郷田三郎と同じく闇の側の人間に見える。
原作と違い郷田三郎をあっさりと見逃す、というより〝真実〟に辿り着いた後は興味無いとばかりに煙の様に消えてしまう。
実相寺昭雄監督は当時インタビューで「明智小五郎は天使」と語っていたけど、何故か明智小五郎の痕跡として登場する「蝸牛」は雌雄同体生物で、ラストに屋根から差し込むプリズムの光に照らされる蝸牛こそが明智小五郎の正体の様でもあるし、この明智小五郎は明らかに物理的に不可能な事象、量子世界下の存在で本当に天使だったのかもしれない。
この実相寺昭雄監督版乱歩二部作は後にNHKでスペシャルドラマ化される満島ひかりの明智小五郎は「男でも女でもない天使か悪魔」の様な存在である事、凝った映像等かなり影響を与えていると思う。
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