ひれんじゃく

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

5.0
再鑑賞。しかし何も見てないに等しいほど内容を忘れていたので実質初見。

ネタバレ注意。






























自分が何者なのか/正常なのか異端なのか判断を下してほしい、そして自分の罪(※戦時中に命の選別を行ったという部分に関して)の大きさを誰かに糾弾してほしいという願いが滲み出た「イミテーション・ゲーム」のくだり、自分が同性愛者であることやエニグマを解読した側の人間であることを隠し続けてでも、亡くなった友人(愛した人)の名前を冠した機械と共にありたかった/孤独になりたくなかったというラストシーン、女性だからという理由で制限を勝手にかけようとするな!!!と抵抗を露わにするシーン、クロスワードで未来を見据えていた2人が出会うシーン、何もかも綿密に組まれていて嗚咽するほど泣いた。こんなに計算し尽くされた映画だったっけ………私は何を見ていたんだろう…

チューリング・マシンは「コンピューター」と名前を変えて人間のすぐそばに寄り添っているっていう事実と、エニグマを解読したのにも関わらずそれが数十年間に渡って秘匿されていたという事実と、同性愛という存在しないはずの罪の重さに耐えかねて自殺してしまったという事実が四方八方から八岐大蛇の如く襲いかかってきて悶え苦しむ。なんでこんな思い通りにならないんだろう。なんでこんな報われないんだろう。なんで……………人生の苦しみが濃縮されていてえずいてしまう。

「僕の兄が砲手をやっているんだ」「少しくらい攻撃を掻い潜ったってドイツ軍は気づかないよ、兄を助けて」っていうシーンで戦争の虚しさ、酷さ、ナチスドイツという存在そのものの醜さを描きつつ、「これで猥褻罪でしょっ引けますね、お手柄ですよ」のシーンで当時のイギリスの醜悪さを描き出す。その二重奏にも叫び散らしたくなる。もうどっちがなんなんだかわからん。正義もなにもないじゃないか。こうも身の置き所をなくされてしまうと惑うしかなくなってしまうよ。マジで何重にも丁寧に丁寧にテーマを重ね塗りして仕上げられた1枚の重厚な油絵を見てしまった気分。

そしてチューリングたちが連合国を勝利に導いたこの裏では日本が原爆を落とされ玉音放送を聴いてたっていうあまりにグロテスクなコインの裏を考えると吐きそうになる。戦争は何も生まない……

この作品で描かれたことのうちどれくらいが真実なのかについてはまた議論の余地があるとはおもいますが…………表現があまりに素晴らしい…冷静になろうとする私を軽々と押さえつけてしまうくらいには……クリストファーとその偉業はこうして今も息づいています………私たちの手となり脳となり足となり友となり……
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