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仁義なき戦い 代理戦争のジェイコブのレビュー・感想・評価

仁義なき戦い 代理戦争(1973年製作の映画)
4.4
世界各地で米ソ冷戦による代理戦争が激化し、国内においても安保闘争が過熱していた昭和35年の広島県。広島最大の暴力団である村岡組の幹部杉原が殺されたことで、村岡の舎弟分である打本が村岡の後継者と目されるも、気が小さく、権威にすがる打本の性格に村岡組の幹部達は愛想をつかしていた。その頃、広島に勢力を広げんと考える呉市の山守は、かつての子分広能の弱味を握り、村岡組の実権を握るために利用しようと画策する。広能は渋々山守傘下に入るも、山守の政敵である打本を担いで村岡組の跡目に推す。しかし村岡組他幹部の後押しもあって、山守が村岡組の後継ぎとなると、気を良くした山守は打本を大勢の前でコケにする。打本は山守への復讐を誓い、岩国の舎弟を使って代理戦争へと持ち込もうとするのだが……。
深作欣二監督の第3弾。シリーズの転換点であり、物語はここから広島抗争事件へと大きく動き出す。そのため本作から、主人公の広能と確執のある老獪山守だけでなく、山守の政敵で優柔不断な小心者の打本や打本の背後にいる神戸最大の明石組、さらに明石組と敵対する神和会など、抗争図がより複雑になってくる。
また本作はもう一人の主人公として、渡瀬恒彦演じる広能組組員倉元が出てくる。倉元は酒によって広能組といざこざを起こした責任を取り、広能組の世話になる。広能は倉元を極道にすることに難色を示していたが、恩師のとりなしもあってその提案を仕方なく受け入れる。しかし広能の不安は的中し、倉元は功を焦って勝手な行動を取るばかりか、兄貴分の西条に利用された挙げ句、裏切られた末に敵に殺されてしまう。
ラストの火葬場では、倉元の骨を拾った直後に敵の襲撃に遭い、骨がアスファルトに落ちて散ってしまう。落ちた骨が熱くて拾えない中、広能は泣き崩れる倉元の母を背後に、骨を拾い上げて握りしめると、自分たちの戦争によって若い者を死に至らしめてしまったことへの悔しさと怒りを噛みしめる。このシーン一つ取っても、本作の良さがにじみ出ている。本作はヤクザ同士の抗争がそれぞれの子分のヤクザを使った代理戦争に発展し、やがて全く関係のなかった若い世代を犠牲に追いやってしまったことの悲劇を描いている。それは、その時代に全世界で起きていた事を象徴しており、最後のナレーションは2度の大戦を経験しながらも、まだ過ちを繰り返し続ける人類への怒りが込められている。
また、本作から日活のスターであった小林旭が参加することとなる。小林旭演じる武田は、山守組の若頭として組をまとめることとなる。これまで田中邦衛演じる槇原がまとめていた山守組は、勢力ばかりは大きくても抗争する度胸のない張りぼての城であったが、武田が来たことで、雰囲気が一気に変わる。梅宮辰夫も本作で別の役として二度目の登場となるが、広能の兄貴的存在としての役割は変わっていない。
若者の命を奪ってまで行われた抗争の仁義とは何かを問う110分弱の群像劇。