ゑぎ

奇妙な女のゑぎのレビュー・感想・評価

奇妙な女(1946年製作の映画)
3.5
 1820~30年代のメイン州バンゴーを舞台とする、エドガー・G・ウルマーの悪女モノ。ヒロインはヘディ・ラマー演じるジェニー。彼女が三人の男を次々と誘惑し手玉に取る経緯が描かれる。ただし、もっとも強烈な鬼女ぶりは、冒頭の少女時代に発揮される。

 それは川泳ぎのシーン。ジェニーと雑貨屋の息子イーフレイムが、細い木橋の上から、泳ぐ子供たちを見ている時、いきなり、ジェニーは、イーフレイムを川に突き落とす。彼が泳げないと知ってのことで、さらにジェニーは、もっと怖がらせてやろうと云い、足で頭を押さえるのだ。これには驚いた。実は、この調子で、こんな凄い演出が続くのかと期待もしてしまったのだが、結局、この冒頭以上のぶっ飛んだシーンはなく、その点はちょっとがっかりした。ちなみに、このシーンの川と橋はスタジオセットにこしらえたもので、決してスケールは大きくないが、それでも川泳ぎシーンをスタジオ撮影している、という部分でも驚くべき画面なのだ。

 さて、ラマーが最初に誘惑するのが、元雑貨屋だが商売が成功して大金持ちになったジーン・ロックハート。ラマーにとっては父親ほどの年齢だが、首尾よくとりこにさせ、結婚する。二人目は、ロックハートの息子イーフレイム、長じてルイス・ヘイワードが演じている。そして三人目が、ロックハートの部下のジョージ・サンダースだ。サンダースはラマーの親友-ヒラリー・ブルックの婚約者でもある。この中では一番のビッグネームであるサンダースが、映画の半ばを過ぎてようやく登場したので、これにも驚かされた。

 ラマーは、男をたぶらかす魔性の女だし、ヘイワードに父親を殺すよう焚きつけるような悪人ではあるのだが、一方で、貧しい人々へのボランティアや、教会への寄付なども描かれる。それは、見栄、功名心、承認欲求といった、利己的な動機からの行動かも知れないが、良い行いであることも確かだし、このような行いをしている際の表情は、穏やかなもので、全然悪人には見えないのだ。このあたりが、複雑で深いキャラ造型ととるか、悪女として中途半端ととるか、別れるところかも知れない。私はどちらかと云えば、後者の感覚が強い。さらにラストも、もっと厳しく突き放して終わっても良かったと思う。
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