小波norisuke

ローマ環状線、めぐりゆく人生たちの小波norisukeのレビュー・感想・評価

4.0
華やかな観光都市ローマの印象とは、がらりと異なる、市井の人々のさりげない日常が淡々と綴られているのだが、実に豊饒で、何とも味わい深い。没落貴族、車上生活者、ウナギ漁師、救急隊員、植物学者。ばらばらの人生が環状線でつながっている。

新聞を読みながら、ウナギの養殖について熱弁をふるうウナギ漁師の横で無表情のまま針仕事をする妻。開け放した扉の向こうで、大きな犬がうろうろしている様子が愉快。

この光景と通じた印象を受けるのが、集合住宅の一室を、窓の上方から捉えた場面。長い豊かなひげの老いた父親が語り続けるのを、机に向かって何か書き物をしながら娘が聞いている。どちらも男性ばかりが饒舌だ。

没落貴族が浸かる金のバスタブの傍らには、見守るように金の仏像が佇む。

そして、心揺さぶられてしまうのが、ヤシの木に潜む虫の音を聞いている植物学者の言葉。小さな虫が組織立って、ヤシの木を食い尽くす。人間の魂と同じだ、と。そんなことを言われたら、もう私の魂がぼろぼろに食い荒らされてしまっているように思えるではないか。

ちょっぴり切なさを感じてしまう、人々の営みなのであるが、ラストは、スタイリッシュなエンドロールとカンツォーネで幕を閉じ、ああ、どんな人生もそれぞれ愛おしく、つつましやかな日常を慈しもうと思えてしまう。静かであるが、情感あふれる珠玉のドキュメンタリー作品。

 
小波norisuke

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