うめ

ローマ環状線、めぐりゆく人生たちのうめのレビュー・感想・評価

3.4
 2月中旬、私が「もうすぐアカデミー賞授賞式だ」ときゃっきゃっ言っていた頃に行なわれていたのが、ベルリン国際映画祭。メリル・ストリープを審査委員長に迎え行なわれたコンペティションで金熊賞を贈られたのが、"Fire at Sea"という難民をテーマにしたドキュメンタリー作品。そしてその作品を監督したのが、今作の監督でもあるジャンフランコ・ロッシ。そこで今作鑑賞…なんてわかりやすい鑑賞理由かしら(笑)

 今作も実は、第70回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得したドキュメンタリー作品。これがなかなか珍しいドキュメンタリーの作りになっていて、それがまず興味深い。

 今作はローマの環状線(GRA)の周辺に住む人々の日々の生活に密着したドキュメンタリー。だがナレーションもないし、住民へのインタビューもない。ただただ住民たちの日常の断片を映し出すのみ。この手法はあまり観たことがなくて、ちょっと新鮮だった。ヤシの木に潜む昆虫を研究している植物学者、夜勤の救急隊員、マンションの一室に住む年老いた父親とその娘、大きな邸宅を持て余す没落貴族…様々な人々の生活を覗き見るような演出は、もはやこちらにカメラの存在を感じさせなかった。まるで劇映画として俳優が演じていて、全体で一つのオムニバス作品を観ているようだった。それはこの手法を取っただけでなく、長期間をかけて監督が住民(被写体)寄り添ったからだろう。俳優でもない人々の自然体をカメラに収めることに成功している。

 それからこれまた不思議だったのが、画面の空間の掴み方と言ったらいいのか…パオロ・ソレンティーノ監督もそうだと思うのだが、イタリア人監督独特の空間表現が所々にあって、とても面白かった。

 環状線周辺の人々を捉えるという発想もなかなか面白い。ローマはそれこそ「グレート・ビューティー/ 追憶のローマ」のような派手な生活をしている人もいるだろうし、観光客で賑わう場所だろう。だが少し離れた場所で、派手でも豪勢でもない生活を営んでいる人々がいる。それは地味で小さな日常かもしれないが、きっとそれぞれにとってはどこか愛おしい日常。この作品に登場する人々の姿は、私たちの姿とも重なって共感を呼ぶものとなっている。

 彼らの日常は「断片」でしか映し出されないので、私はついつい彼らの人生を想像してしまう。それもこの作品を観る一つの楽しみと言ってもいいかもしれない。と言っても、この楽しみは人を選びそうだが(笑)例えば、電車内や待ち合わせ場所で「人間観察」をする人は、きっとこの楽しみを味わえるはず。私も「人間観察」する人間です(笑)街中で全くの他人を眺めて、その人のストーリーを考えたりするんです…。そういう楽しみを味わえる余白が今作にはあるのだと思います。

 ただもうちょっと心に残る(引っ掛かる)シーンや台詞があったら、もっと印象深かったかなとは思うが、ドキュメンタリーだからしょうがないかな。でも人間観察好きな方や深夜のテレビの映像散歩が好きな方はそこそこ楽しめる…はず。
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