幽斎

トラッシュ・ファイアの幽斎のレビュー・感想・評価

トラッシュ・ファイア(2016年製作の映画)
3.8
「イヤミス」と言う言葉を御存知だろうか?。ミステリー小説のジャンルで、読んだ後に「嫌な気分」に為るミステリー小説を言う。殺人事件が起こり、名探偵が事件を解決。スッキリ満足するのが今までのミステリー小説。これに対し流行のイヤミスは、事件のトリックで無く、犯人の深層心理に潜む闇を解き明かす事で、真相を浮き彫りにする。読者は禁忌な世界へ足を踏み入れる事に戸惑いながら、見たく無いのに見てしまう、最後に嫌な汗がタップリ出る事をお約束できる、後味の悪いミステリー小説。

代表作は、湊かなえ氏「告白」松たか子主演で映画化。氏のデビュー作にして代表作。思い掛けない伏線、張り巡らされたトラップ、何度も読みたくなる「衝撃」のラストは必見。沼田まほかる氏「ユリゴコロ」吉高由里子主演で映画化。昼ドラ的な歪んだ復讐劇は、恋愛も絡めたミステリーの一級品。ショッキングな展開に震えが止まらない。真梨幸子氏「殺人鬼フジコの衝動」尾野真千子主演でドラマ化。人間の心の闇を抉り出した作品で、ホラーとエロテックの融合は、ノンフィクションの様なリアリティで、ラストで背筋が凍る。いずれも文系の私が自信を持ってお薦めします。

本作はイヤミス要素の濃いストーリー。恋人のイザベル以外は全員サイコパスで良い意味で不快(不愉快とは違う)。秀逸なのはホラーに逃げず、スリラーとして脚本が発ってる事。グロ描写も無く、登場人物の得体の知れない気持ち悪さに終始する展開は、観る人を選ぶ点だけ留意されたし。欠点は冒頭から30分が説明的で長く感じられ、主人公も感情移入出来る要素が無い為、観るのを止めてしまう懸念は有るが、意外なラストは「衝撃」で「当然」とも言える。製作も俳優も無名だが、掘り出しモノと手放しで褒めたい。

本作は限定的な劇場公開の後にVODとしてリリース。それをソフト化したゲオ傘下のブルークは最近良い仕事をしてる。SFやアクションは未見で分らないが、スリラー、ホラーのジャンルは意外な掘り出しモノが有るので、B級に理解の有る方は試して見て欲しい。

不快と理不尽が交錯するダーク・スリラー。イヤミスに耐性の有る方はお試しあれ。
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