ろく

人妻のろくのレビュー・感想・評価

人妻(2013年製作の映画)
4.2
谷崎の「刺青」や「少年」が好きだ。

そこにあるのは関係性の転覆だ。搾取するもの/されるものが一定ではないこと、そしてたまにその関係が大きく崩れることを城定の映画は教えてくれる。

でもそれって城定のライフワークのようなものだろうなと感じた。「悦楽交差点」や「シュレディンガーの女」などと同じで、そこにあるのは権力の移動なんだ。

映像でもその移動は見せる。もともと外に出ない/出してもらえない女は殺人犯(未遂?)の男と出会うことで動きだす。土手を歩き街をさまよう。今まで「何もできなかった」彼女がだ。その移動こそ彼女の「生」なんだろう。ああ、男をリヤカーに入れて土手を歩くシーンに痺れてしまった。彼女は自分の足で歩いているんだ。

それと同時に彼女は喘息が治り、最後のシークエンスでは煙草まで吸う。病気というのもまた彼女が自由に動くことを制している枷なのだ。動けないのは「理由がある」と思っているのは自分だけかもしれないんだ。自分はダメだから引っ込み思案だから、病気だから。いろいろなことを理由に「動かない」ことにしているのは僕らも一緒。でもその理由は恣意的だ。言い訳と言ってもいい。いいから動け!動けばいいんだよ!それは城定からのメッセージかもしれない。

城定の映画には食事シーンもよくでてくる。「食べる」ことは実はとっても大事なことでそれは「性」よりも大事なはず(だって食べなければ動けないじゃないか)。そしてそのことを城定は一番知っている。だから出演者に食事をさせる。それがどんなに唐突でも。
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