酢

D坂の殺人事件の酢のレビュー・感想・評価

D坂の殺人事件(1997年製作の映画)
3.3
実相寺昭雄のお家芸・光と影を駆使した絵作りはさすが。ジオラマの使用、贋作の制作工程をねっちり追う演出も魅せられる。

なのだけど……😭
世間体を取り繕いながら不倫に窃盗と嘘つき揃いのD坂の住人達。責め絵の世界にのめり込む真田広之のピュアな狂気はそれと対比を成すはずなんだけど(「怪奇大作戦」の岸田森よろしく)、今回の実相寺昭雄の視線は絶えずクールで、常に肩入れしすぎない距離感があってどうにも盛り上がらない。

一方で、終盤に展開される渾身の偽物論には胸打たれる。偽物は本物に敵わない屈折を抱えて生きていくしかない。しかし偽物の世界に戯れる享楽を、否定したくはない。多分そんな内容だと察することはできるけど、あまりに韜晦精神が強すぎて。もう少し説明してくれよと。この不親切さは脚本と監督のどちらの照れなんだと問い詰めたくもなる。

映画のラストは小林少年の三輪ひとみが鏡を見つつ女装に耽る倒錯を映す。余りある説得力が素晴らしい。だからこそ全体的にもう一歩踏み込んでくれたらって思うけど、ここで留めるのが実相寺流の美意識なんだろうな。
酢