昼行灯

D坂の殺人事件の昼行灯のレビュー・感想・評価

D坂の殺人事件(1997年製作の映画)
3.6
模型の街並みと人形が裏方の人によって紙で作られ、そして動かされるのは、倒錯した性生活を送っている住人達が表向きの生活を仮構しているように思われた。この演出を美術の池谷仙克は『宮城野』でもやっていて、この人の作風でもあるのかと思った。池谷は特撮を担当していたこともあるらしく、同じく『帝都物語』などで特撮を用いていた実相寺昭雄と合わせて、彼らの作家性であると言えるのかもしれない。

犯人の犯行理由が最後まで分からなかったのがサスペンスだった。犯行理由上手く言えないけど分かりますといった小林少年もラストで女装に目覚めてて、開かれた状態で物語が終わっていた。でもそもそも小林少年役は女性の方が演じていて、彼女が男装したうえで女装するという二重の倒錯が生まれていたのだと思う。

女装した真田広之が鏡を前にして絵を描くとき、そこには3つの自分が生まれているというようにも思われた。既にある贋作家としての自分、大江春泥の贋作として絵に描かれた自分、鏡に映されたお蝶の贋作としての自分、、だがそもそも真田広之が贋作を描いているのは父の名を継ぐためであり、本当の真田広之は存在していたのかという話になってくる。だからこそ、彼は本物を殺して自分が本物にならなければならないと異常に執着していたのだろう。

心理試験シーンの水色と赤の光が『帝都物語』で見たような超常現象感もあり、どんどん被験者の2人に寄っていくカメラ、そして対照的な2人の表情がスリル満点だった💯明智小五郎の登場シーンはしばしばカメラが斜めに傾いていて、彼の掴みどころのなさが際立っていた。部屋の中が全貌できるハイアングルのシーンも多くて、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』みたいな気分にもさせられた。
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