惹かれる理由がわからないのに、なぜか妙に気になって見入ってしまう映画というのがたまにある。
この作品はそんな映画の代表格だと感じた。
描かれるのは蒲生家の現代と過去。
現代では、子連れで出戻った姉が夫と揉めている。
それが過去とどう関わってくるのだろうと気になるが、出てくる過去はほとんど無関係だ。
短気ですぐに手を出す父親。
父に反抗的で、どこかいろんなことに投げやりな奔放な姉。
能天気でいたずらばかりしている弟。
常にぼやいている母親。
過去では、彼らのなんでもない日々が、とりとめもなく描かれる。
とぼけた会話やユーモラスなやり取りはあるものの、それはまったく特別ではない。
本当に、とことんまで普通の情景だ。
でも、まったく劇的ではない生活の断片を見せられているのに、なぜか目が離せない。
役者が上手いというのはもちろんある。
染谷将太の適当ぶりや、永瀬正敏のいい加減な様子は観ていておかしいし、気にはなる。
黒川芽以演じる姉のサキもこれ以上ないくらいに魅力的だ。
が、この映画の魅力がそこだけにあるとは思えない。
たぶん、なんでもない日々のすべてが、蒲生という一家の歴史そのものだからこそ惹かれるのだ。
劇的でない日々を積み重ねながら、蒲生一家は生きてきた。
だからこそ、その日々の全体から、蒲生家というものが見えてくる。
家族の絆とか、姉弟愛とか、そんな熱いものは微塵もない。
その証拠に、シーンを彩る劇的なBGMは、毎回唐突に終わってしまう。
まるで「この場面は劇的ではありません」と言わんばかりにだ。
ごく普通の日々こそが蒲生家の歴史であり、彼ら家族を成り立たせてきたものなのだ。
それを、一か所だけ劇的なBGMを最後までドーンと流してみせた演出には震えた。
ああ、映画というよりも、蒲生家の歴史を見てきたんだ、と感じた。
なんにもないのに家族ということを思わされる。
そういう魅力のある、変な映画だった。