ひこくろ

ドライブイン蒲生のひこくろのレビュー・感想・評価

ドライブイン蒲生(2014年製作の映画)
4.2
惹かれる理由がわからないのに、なぜか妙に気になって見入ってしまう映画というのがたまにある。
この作品はそんな映画の代表格だと感じた。

描かれるのは蒲生家の現代と過去。
現代では、子連れで出戻った姉が夫と揉めている。
それが過去とどう関わってくるのだろうと気になるが、出てくる過去はほとんど無関係だ。

短気ですぐに手を出す父親。
父に反抗的で、どこかいろんなことに投げやりな奔放な姉。
能天気でいたずらばかりしている弟。
常にぼやいている母親。

過去では、彼らのなんでもない日々が、とりとめもなく描かれる。
とぼけた会話やユーモラスなやり取りはあるものの、それはまったく特別ではない。
本当に、とことんまで普通の情景だ。
でも、まったく劇的ではない生活の断片を見せられているのに、なぜか目が離せない。

役者が上手いというのはもちろんある。
染谷将太の適当ぶりや、永瀬正敏のいい加減な様子は観ていておかしいし、気にはなる。
黒川芽以演じる姉のサキもこれ以上ないくらいに魅力的だ。
が、この映画の魅力がそこだけにあるとは思えない。

たぶん、なんでもない日々のすべてが、蒲生という一家の歴史そのものだからこそ惹かれるのだ。
劇的でない日々を積み重ねながら、蒲生一家は生きてきた。
だからこそ、その日々の全体から、蒲生家というものが見えてくる。

家族の絆とか、姉弟愛とか、そんな熱いものは微塵もない。
その証拠に、シーンを彩る劇的なBGMは、毎回唐突に終わってしまう。
まるで「この場面は劇的ではありません」と言わんばかりにだ。

ごく普通の日々こそが蒲生家の歴史であり、彼ら家族を成り立たせてきたものなのだ。
それを、一か所だけ劇的なBGMを最後までドーンと流してみせた演出には震えた。
ああ、映画というよりも、蒲生家の歴史を見てきたんだ、と感じた。

なんにもないのに家族ということを思わされる。
そういう魅力のある、変な映画だった。
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