Mort

大いなる沈黙へ ーグランド・シャルトルーズ修道院のMortのレビュー・感想・評価

3.7
■感想
 1084年に建てられたグランド・シャルトルーズ修道院を撮影したドキュメンタリー映画。1984年に撮影許可を申し込んだ際の修道院の解答は「まだ早い」。それから16年後に「準備が整った」と許可を得て、映画監督であるフィリップ・グレーニングのみが修道院に入り、撮影された映画である。この修道院では130種類の薬草を調合したリキュールが名物だそうだ。戒律の厳しさで有名なカルトジオ会修道院の噂とは裏腹に、リキュールが名物であるというのが興味深い。建物は装飾を極力省いた質素な作りである。本映画とは関係ないが、幼少期のココシャネルが過ごしたと言われる孤児院はシトー派であるが、そのシトー派も同じ時期(1098年)に設立され、カルトジオ会修道院同様の厳格さを要求する宗派らしい。無駄な装飾がなく、機能美に特化した内装をこうしてじっくり観ることで、シャネルのデザインを見直すきっかけにもなる映画である。
 冒頭、明朝と思われる薄暗い時間の、若い修道士による祈禱室での祈りから始まり、彼の祈りの場面で映画が終わる。まるで修道院の生活を1年間円環にしたような構造で興味深かった。
 また、用いられているカメラであるが、デジタルカメラとフィルムカメラらしき二つあり、それぞれが何らかの意図で使い分けされている印象を受けた。デジタルカメラで撮影された映像では、ロングショットやクローズアップショットなどで客観性を意識した感覚があるのに対し、フィルムカメラの映像はハンディカメラでどことなく主観性が際立つ映像であったように感じる。フィルムカメラの映像は、修道院に長く務めている修道士の記憶を主観的かつ懐古的に挿入することで、視聴者がまるで昔から修道院で過ごしていたかのような感覚を与えるのではないかと思った。劇中では、特に新しく入った助修道士と映像冒頭で祈る青年が中心的に撮影されているように感じた。しかし、若者らしき修道士は少なく、その年齢差が上述した映像のモンタージュと相まって、修道院の歴史や、修道院のリアルな現状を物語っているのではないかと思った。
 3時間近くある映画で、BGMは修道院での生活音のみ、台詞も殆どなく、世俗的な毎日を忙しなく過ごす我々にとって、アルプスの山奥にある修道院での、あまりにも異なる時間感覚を味わうのにこの映画は最適だと思う。見終えた後、普段の忙しなさを一度考え直すきっかけになる気がした。日々の雑事に押し流されそうになったら、また立ち寄りたい映画の一つである。
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