ストレンジラヴ

大いなる沈黙へ ーグランド・シャルトルーズ修道院のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

4.1
「静けさ…この中で主の内なる声を聞け」

フランス、アルプス山麓に位置するグランド・シャルトルーズ修道院は1084年に創立された男子修道院である。厳格な戒律で知られ、修道士たちは日々を祈りに捧げ、清貧のうちに生涯を送る。会話は日曜日の昼食後、散歩の時間のみ許されており、この生活は何世紀にもわたって一貫して続けられている。本作の監督フィリップ・グレーニングが撮影申請を修道院に打診したのが1984年、回答は「時期尚早」とのことだった。「準備が整った」として修道院側から撮影許可が下りたのは実に16年後の2000年だった。条件は「音楽は礼拝の聖歌に限定すること、ナレーション・照明は一切使用しないこと、撮影はグレーニング監督のみが内部に入り行うこと」。かくして6ヶ月間の共同生活が始まった。
門外不出を貫いてきた修道院の克明な記録。電気・水道そして財務処理用のノートパソコンは辛うじてあるものの、その他にはほぼ文明と呼べるものがない。俗世間から完全に隔離されている。小さなブリキの箱ひとつが各修道士の全持ち物だ。普通の人間が到底生活できる環境ではない。まず間違いなく気が狂ってしまうだろう。そのような環境下で、修道士は今日も祈りを捧げるのである。
以前Amazonプライムで配信されていた際、痛恨の寝落ちをかましてしまいあえなく配信終了に間に合わず観そびれていた本作。どうにかDVDを入手しやっと全編鑑賞することができた。何も話さない、世間との交わりもない、ただ自然の音だけがそこにはある。この世界では生老病死ですら神に近づくための過程なのである。無の中にこそすべてがある、極上の2時間49分だった。