アニマル泉

犯された白衣のアニマル泉のレビュー・感想・評価

犯された白衣(1967年製作の映画)
5.0
恐るべき若松孝二の初期のアナーキーな挑戦だ。制作前年に起きたシカゴ看護婦8人殺しをモチーフにしている。夜の海で美少年(唐十郎)が拳銃をぶっ放す。長玉レンズで迫り来る波バックの唐がいい。若松は「海の作家」だ。設定はシンプルだ。看護師寮に迷いこんだ唐は看護婦たちに面白がられてレズの情事を見せつけられる。唐は次々に看護婦たちを射殺していく。殺意が判らないから不気味だ。柱に縛り付けた看護婦を唐が「夏の思い出」のメロディーを口笛吹きながらカミソリで切り刻み、真っ赤な血のオブジェにしてしまうロングショットが戦慄だ。5人惨殺して最後に少女(坂本道子=夏純子)が残る。少女だけは命乞いもせず、じっと唐を見つめている。「何故そんなことをするの?」夜の海を唐と全裸の少女が走る。海ほうずきの歌が流れる。胎児のようにうずくまる裸の唐の周りを血だらけの5人の全裸の看護婦たちの死体が円陣に囲む、若松らしい決定的な俯瞰ショットになる。少女は消えている。
海以外は監禁された和室の密室劇だ。長回しを多用している。犯行の一夜の物語であり、獣の鳴き声や風や海の音だけが切り裂くように響く。ひたすら不気味だ。
「怒りが表現を生む」と若松は言う。唐十郎の怒りは何なのか?犯した無差別殺人はアナーキー、アングラ、無慈悲である。しかし、その「怒り」は時代によって様々に変容しながら脈々と流れ続けているのではないか?それこそが不気味の正体かもしれない。白黒シネスコ・パートカラー。
アニマル泉

アニマル泉