ガリガリ亭カリカリ

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦のガリガリ亭カリカリのレビュー・感想・評価

4.5
とある場で某大学のオカルト研究会と某大学2のオカルト研究会の現役学生さんたちと意気投合しホラー談義をしていて、やはり若者の間ではゾゾゾとかフェイクドキュメンタリーQとか暗夜とか大森時生プロデュース作品とかがトレンドらしく、自分が「俺がみんなくらいの年代の時に白石晃士のコワすぎが流行ったんだけど、コワすぎはみんなは観ているの?」と尋ねると、「コワすぎの工藤さんってめっちゃパワハラするじゃないですか。アレが観てて辛すぎて無理なんですよ」「取材相手に怒鳴ったり殴ったりするのがマジでキツすぎて最悪っすよ」「パワハラさえしてなかったら面白いんですけど、辛すぎて口裂け女でやめました」など証言していて、かなりカルチャーショックを受けた。

いや、確かに工藤ディレクターはパワハラクズ野郎である。しかし、その露悪性をもってして、『ありふれた事件』の共犯関係のサスペンスに接近したい白石晃士の作家性というものが確かにあって、そこをテン年代に受け入れて楽しんでいた観客は存在していた。戯画化された暴力によって揺るがされる虚実皮膜な面白さを、我々は"最低最悪で愛おしいキャラクター"として処理してしまっていた。暴力、あの瞬間こそが、『コワすぎ』と他のフェイクドキュメンタリーを差別化する瞬間でもあった。

もちろん、最新作である『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』において、時代に取り残されたハラスメントクズ野郎である工藤を、断罪する形で作劇がされていたことを踏まえると、白石晃士自身も、工藤というキャラクターの露悪性には自覚的であることは指摘できる。

けれども、時代の価値観や倫理観のアップデートの強固さは、瞬く間に作品を老朽化させてしまうのだなと肌身で感じた。そして、これはそういったアップデートへの批判ではない。そういった当然のポリティカルコレクトネスを前にしても尚、不健全なまでに惨たらしく美しさを放つ作品というものは必ずあって、そういった映画こそが残るべきだとも感じる。単に拒絶されてしまうようでは、それはインスタントな消費物に過ぎない。
そして、時代なんか関係なく、当時から不快だと感じる人もいたことを失念してはならない。

とか思いつつ、自分にとって『コワすぎ』シリーズは青春の一部としてどうしても愛してやまないコンテンツなのだが……
彼らが述べていることを理解しつつ、それを見て笑っていた人々と、それを見て不快になる人々との間の乖離について考え続けることが、表現について考えるということだと思う。

口裂け女と同じスピードで走る村上ロックさん。
ボイスチェンジャー掛けられた霊能者・犬井の「死ぬよ」
口裂け女に向かって車で突進する、口裂け女捕獲のために金属バットを手に取る男。
髪の毛で作られた最強必殺便利呪物。

口裂け女が部屋を訪問するまでの時間、投稿者たちが部屋でカップ麺を食べているのがめっちゃ良い。白石晃士はホラー演出以前に、底辺生活困窮者の描写が最高にうまい(その最高峰が『オカルト』)。