【だから最後はモンスターが勝つ】
Z級映画という名の深海の底の底で生み出された、チープな半魚人が人間を襲う超低予算モンスター映画。
キューバ革命後のプエルトリコでたった"6日"で撮影を終え、ピッグス湾事件直後の1961年に公開された作品。
B級映画の帝王、ロジャーコーマンの個性が最もでているとされている。
この映画の大きな特徴は二つある。
まずモンスターそのもの。
『リトルショップホラーズ』と同じく、別の映画の余った撮影期間の中で制作されたため、全て現地調達で作られた。
ボディはレインコートにモップをつけて、目玉にテニスボールをつけただけ。
それ故に造形は『ロボットモンスター』のローマン並に安上がりでバカバカしさ全開。
ポンキッキのムックに凄く似ている。
二つ目。ここが最大のミソ。
そんな変なモンスターが
【人間に勝ってしまった】
ことだ。
なぜそうなったかというと物語を見れば分かる。
《キューバ革命で失脚した前バティスタ政権の将軍達は、黄金を持ち逃げしながら海外に逃亡する為にアメリカのギャング団を雇ったものの、ギャング達は将軍達を殺して黄金を独り占めにしようと企て、それを伝説のモンスターの仕業にでっちあげた。
しかし、そのモンスターは本当に実在しており、金に目のくらんだ人間共に襲いかかるのであった》
つまり、登場人物は全員悪い奴らであり、そこに"いつもなら最後に殺される運命にある"ゴミ同然のモンスターを出現させ、醜い人間共を皆殺しにすることでありとあらゆるものコケにしたのである。
ここで面白いのが、物語の語り部である主人公のスパイの行動。
将軍やギャングを監視しながらことある事に女性達を口説き、いち早く怪物の存在を察知した彼は何をしたのか。
「優秀なスパイには正しい状況判断が必要だ」
「この場合一番正しい行動は」
「"直ちにトンズラすることだ!"」
この一切の迷いのない潔さ!
そして始まるあまりにもショボい大虐殺!
更にトドメのこの一言。
「本当の殺人鬼はキューバの将軍でもギャングでもない」
「あの伝説の怪物だったんだ!」
もー、すげー、ゲラゲラ笑える!!
この世にもヘンテコリンな物語は、後にデルトロの手によって様々な作品と絡み合い、あの『シェイプオブウォーター』へと紡がれていった。おそらくは。
僕はそう信じてる。
半魚人は既に勝っていた。
それは確かだ。
あの映画のことを思い出す時、一つの文章が頭に浮かぶ。
数十年も前に作られた本の最後の一節。
-私はこのラストシーンを発作的に思いつき、プエルトリコから脚本家のチャールズBグリフィスに電話したのだった。
「今まではいつも炎や電気や洪水などでモンスターを殺してきた」
「今度はモンスターが生き残る。映画の最後は」
「海底でモンスターが黄金入りの箱の上で座っている画で終わる。まわりには映画の登場人物全員の骸骨が散らばり、モンスターは楊枝を使っている」
「そうだ、モンスターが勝つんだ」-