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白い沈黙の一人旅のレビュー・感想・評価

白い沈黙(2014年製作の映画)
5.0
アトム・エゴヤン監督作。

8年前に失踪した娘を捜し出すべく奔走する父親の姿を描いたサスペンス。

カナダの鬼才:アトム・エゴヤン監督による失踪サスペンスの傑作で、カナダ出身のライアン・レイノルズが雪深い田舎町で失踪した娘の捜索に奔走する父親を疲弊し切った表情で熱演しています。

ある吹雪の日、父親が食料品を買いに店に立ち寄っていた僅かな時間に、車の後部座席にいたはずの9歳の一人娘が謎の失踪を遂げる。それから8年後、未だ娘の発見に繋がる有力な手掛かりが出てこない中、ある時捜査を担当する刑事が失踪した娘に良く似た女性の写真をネット上で発見する。父親は娘の生存に希望を抱き、頼りにならない警察を差し置いて独自の捜査を続けるが…という失踪サスペンスですが、特徴は本作が事件の真相を順を追って丁寧に紐解いていく正統派のミステリー劇ではなく、8年前に娘を誘拐した児童誘拐組織の犯人と現在の娘の置かれた状況が序盤から提示されている点にあります。失踪した娘を懸命に捜す父親の奔走と、父親自身の犯行と疑い続ける無能な地元警察、彼らの関知しない所で娘を個室に監禁している犯人の歪んだ欲望と行動が交錯する作劇になっています。

また『エキゾチカ』(1994)や『スウィート ヒアアフター』(1997)等キャリア初期作で既に見られたエゴヤン監督の得意技―“時系列のシャッフル”が大胆に取り入れられていて、過去と現在が複雑に交錯した巧みな構成をもって事件の全貌が暴き出されていきます。

ヴィルヌーヴの『プリズナーズ』(2013)における狂気に憑りつかれた父親とはタイプの異なる、誘拐された我が子を諦めずに捜索する父親の物静かな執念と深い愛情(+母親の失意と憔悴)に心揺さぶられる力作で、緊迫と緊張が最高潮に達するクライマックスの雪路カーチェイスはそれ以前の硬直した捜査進捗を一挙に打破する動的展開をもって観客を画面に釘付けにしています。
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