踊る猫

ラブ&マーシー 終わらないメロディーの踊る猫のレビュー・感想・評価

4.5
「天才」を生きるのもつらいだろうな、と思う。自分の中にあるものに絶大な自信/確信を持ちながら、それが理解できない周囲との(あるいは理解しすぎる人々との)軋轢/ディスコミュニケーションに苦しめられる。その葛藤を、しかし扇情的な筆致を避けて丁寧に描いたあたりがヒューマン・タッチに思われ、温もりを感じた。この映画は多分に「ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン」の物語と受け取られるかもしれない。それはもちろん、あながち間違ってはいない。だが、私たちは「今のブライアン・ウィルソン」を知っている。そこにいるのはビーチ・ボーイズ時代に留まり続けていない、常に前進するミュージシャンだ。そんな彼の人生の舞台裏で起きていたこれほどまでのつらい状況に感情移入してしまい、しかし確実に希望に満ちた未来へと誘ってくれたこの作品は私をして少し泣かせた。それだけでもこの映画には何かがある(いや、歳のせいだろと言われたら返す言葉もないのだけれど)。珠玉の名曲群が造り上げられる場面で起きている『ボヘミアン・ラプソディ』ばりのマジックをぜひ見逃さないで欲しい。
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