真っ黒こげ太郎

フューリーの真っ黒こげ太郎のレビュー・感想・評価

フューリー(2014年製作の映画)
4.5
「理想は平和だが―――」

「歴史は残酷だ」



1945年4月、第二次世界大戦下のドイツ。

M4中戦車「フューリー」号に乗り戦場を駆ける、ドン・“ウォーダディー”・コリアー率いるクルー達。
しかし副操縦士が殉死し、代わりにやって来たのは戦地の経験もなく、戦車すら見た事無いヒヨッコ新兵のノーマンだった。

早速任務を受け、歴戦の猛者揃いなクルー達は新兵と共にフューリー号に乗り町を占拠する任務へ向かう。
敵兵の殺害すら躊躇し、戦いの中でも怯えて泣き叫ぶノーマン。
だが激しい戦場の中で、ノーマンは一兵士として成長してゆく。

そんな中、西から来る敵部隊を食い止める任務を受け、迎え撃つ通り道へ向かうが、敵部隊は200~300人の大部隊でこちらへ向かっていた…。




第二次世界大戦下の戦場で、現実を知り成長ゆく新兵と、共に激しい戦場を戦うクルー達を描いた、戦争ドラマ映画。

モチベーションの都合でだいぶ遅れはしたもの、他にまだ見たい映画があるので(爆)、デヴィッド・エアー監督作の追いかけはこれで一応の一区切り
9月頃からとある事情でエアー監督を不憫に思い、こうして鑑賞してきたが、こうして作品を追うと思い入れが増していきますね。
またこの人が脚本してる作品とかに出会えたら是非ともレビューしたいです。


今回レビューするのは、ベテラン戦車部隊に配属された新米兵士の成長物語と、圧倒的に不利な状況で大群に挑んだ戦車部隊員達の生き様を描いた、実話ベースの超ハードな戦争アクション・ドラマ。

娯楽アクションに留まらない、戦場のリアルな現実をこれでもかと描く。


前半は、戦争映画版「トレーニングデイ」の様な感じで、殺しも知らぬ新人兵士の青年が過酷な現場の中で成長してゆく様を描いている。
新人兵士はもう最初は「人を殺したくないよ~」「お家に帰りたいよ~」といった感じで物凄い情けない。
自分は殺らなければ殺られるアクション作品でメソメソする様なキャラが嫌いで、最初はベテランクルー達の方に肩入れして見ていた。
だが、あちこちに死体や肉片がまき散らされたり、小さい女子供の兵士や家族がいると泣き叫び命乞いをする敵兵を撃たなければならぬ”戦場の現実”を目の当たりにし「実際に戦場行ったら彼みたいに泣き叫んで怯える羽目になりそうだ」と考えを改めた。

そんな泣き虫な彼も厳しいリーダーの教えと戦いの中で自然とクルー達との絆が芽生え、敵を撃ち殺すことも厭わぬ兵士になってゆく。
きっとクルー達もみんな、こうして戦場で戦う兵士になっていったんだろうな…。


クライマックスは300人近い敵との死闘!!!
戦車は履帯とエンジンをやられ動けず、人数的にも弾薬的にも圧倒的に不利。
だが、仲間達との絆が生まれた”家”と共に最後まで戦う決意を固めて、決死の戦いに挑む。
お話としては少々出来過ぎな感じもありますが、この展開は純粋に燃えましたね。


戦いの場面ではモノホンの戦車を使用し、手に汗握るカッコいい戦闘シーンが展開。
銃撃戦は閃光で表現してありますが、戦車の轟音や火薬の爆発はまごう事なき本物。
中盤の戦車同士の対決や、クライマックスの籠城戦など、戦闘シーンはどれも見ごたえがありました。
(ミリオタの人が見たら、また違う感想が出てきそうですが。)

だが、それ以上に、戦いの中での”無残な死”や”暴力が過ぎ去った後”を描いている為、爽快感より戦争の悲壮感やそれをまざまざと見せられる疲れの方が強い。
キャタピラで轢かれて粉砕されたり、燃えて苦しむ前に拳銃自殺したり、あちこちに死体が転がったりと無残な場面の連続。
特に生理的嫌悪感を感じたのが、序盤に出てくる、戦車内にこびり付いた顔面の肉片。
正直「ヘルレイザー」にあんな感じの肉片があったし、あちらはファンタジーホラーだから飲み込めたけど、こちらはリアルですからね。
そりゃ新兵も吐きそうにもなるわ。

後、キャラは皆凄く立ってたし、それを見事に演じた役者陣も見事でした。
名優ブラッド・ピットさんは勿論、怯えた若者から兵士へと変わってゆくローガン・ラーマンさん、本作の為に頬に傷を入れたシャイア・ラブーフさん、粗野な役だけど最後にはヘビーターンする ジョン・バーンサルさん等、役者さんは皆魅力的でした。
(ジョン・バーンサルさんは名前覚えてるけど顔は今まで覚えられなかったので、今回でようやっと覚えられそうです。w)



長々と書きましたが、今作の戦車戦は流石だし、戦争の残酷さもまざまざと見せつける、とんでもない一作でした。
惨い場面が多いので何度もリピートするのは辛いし、ミリオタの人が見たら違う感想を抱くかもしれませんが、実に骨太で気合の入った戦争映画の力作です。

という事で、デヴィッド・エアー監督作品を追ってきましたが、リアルなガンアクションは勿論、暴力の世界を急行付けた演出でしっかり見せてくれる、凄い監督だと思いましたね。

とある大作映画で失敗してボロクソに言われたり、その大作映画を他の監督が成功させてボロクソに比べられたりしましたが、このリアルな暴力世界はエアーさんにしか描けないと思うので、これからも頑張って欲しいです。
そして、何だかんだでエアー監督の良さを知るきっかけになったので、エアーさんの精神を受け継いでくれたガン監督にも感謝を。

今後どうなるかは不明瞭ですが、エアーさんにはまたリアルな暴力映画を撮って欲しいですね。
当レビューはデヴィッド・エアーさんを今後も応援します。