akrutm

ママはレスリング・クイーンのakrutmのレビュー・感想・評価

4.0
出所したばかりの女性ローザが、離れて暮らしているプロレス好きの息子との親子関係を修復するために、勤め先のスーパーの同僚を巻き込んでプロレスの試合を行うまでの顛末をコメディタッチで描いた、ジャン=マルク・ルドニツキ監督の映画。プロレス映画というだけの理由で、それほど期待せずに鑑賞しただけに、予想に反した面白さにはとても満足した。

まずは、単純なスポーツ映画でもコメディ映画でもなく、ある意味で社会派映画と言える内容がなかなか魅力的である。息子と一緒に暮らすこともできず、生活も不安定(スーパーも解雇されてしまう)なシングルマザーのローザや、肉屋で容姿に自信のないヴィヴィアン(を演じているコリンヌ・マシエロのインパクトも凄い、最初の方は男だと思ってしまった)など、いわゆる社会的弱者がプロレスを通じて未来への希望を見出していくという元気が出る映画である。ジャン=マルク・ルドニツキ監督も、インタビューの中で、ケン・ローチなどの社会派イギリス映画に触発されていると語っている。

登場人物たちのキャラが立っている点も、本映画を見応えあるものにしている。前述のローザやヴィヴィアンだけではなく、旦那に浮気されている50歳のベテラン店員のコレット(ナタリー・バイがこんな役をやるところがなかなか凄いが、結構色っぽい)はどんどん弾けていくし、遊び人のジェシカは一人の男性に恋したりと、4人の店員それぞれが魅力的なのである。往年の人気レスラーで彼女たちのコーチ役のルシャールを演じるアンドレ・デュソリエもさすが味わい深い。

ところで、フランスにおいてプロレスはどのくらい認知されているのかが気になった。映画の中では、1960年代に一世を風靡した後は下火になり、本映画が描いている時代(2010年代)にはアメリカのWWEが認知されるようになったようなことが述べられている。そういう意味では、プロレスに馴染みがないわけではないであろう。あのアンドレ・ザ・ジャイアントを生んだ国だし、ロラン・バルトもプロレスに関する論考を書いているのだから、年配の人たちにとってはプロレスは娯楽のひとつだったと思うが、最近は厳しいのかもしれない。それは日本でも同じであると言えるが。
akrutm

akrutm