木蘭

マルケータ・ラザロヴァーの木蘭のレビュー・感想・評価

マルケータ・ラザロヴァー(1967年製作の映画)
3.2
 13世紀ボヘミア王国を舞台にしたチェコスロバキアの国民的文学を、芽吹き始めたプラハの春を背景に映画化した前衛的作品。

 古典的な時代劇の様だが、原作自体が戦間期のアバンギャルド小説だった様だし、基本的にはチェコのヌーヴェルバーグと呼ばれる様に前衛的な映画なので、物語を紡ぐというよりはイメージの連続という色合いが強い。「フィルム=オペラ」とは言い得て妙。
 ナレーターが登場人物と会話し始めたり、非現実的な描写や、幻と現実が交差したり、時には重要な局面を描かずに、時間が飛んだりもする。全部が全部ではないが。
 チェコスロバキア人には知られた話なのだろうけど、事情の違う日本人は、公式サイトのあらすじと登場人物紹介をしっかりと読んで観る事をお薦めしたい。

 予備知識無しで観たら、ひげ面で被り物をした登場人物たちの顔や名前の区別が付かないうちに話が進み、相関関係がこんがらがり、時折挿入される説明字幕もまた思わせぶりで余計に混乱した。3時間近いので、ダラダラと鑑賞していたら、その内に顔も覚えるし、皆さんの事情も分かったけどね。
 個人的には、ヒロインのマルケータの親父さん、途中で領主(貴族)と分かったんだけど、館や立ち振る舞いが地主(農民)にしか見えなくて、一寸混乱した。落ち武者狩りをしている百姓だと思うと理解出来ないけど、お隣の領地の騎士だと思えば、なるほど・・・そりゃ「なめんな手前ぇ、ぶっ殺す!」だよな、みたいな。

 画面からは、当時のチェコスロバキア最大の制作費と10年の歳月を掛けた大作というのが伝わってくる。
 とにかく美しく、何処を切っても絵になる2時間46分。
 俳優たちの体の動きや表情も素晴らしく、当時の衣装や武具を再現するのみならず、内面から湧き出るリアリズムを求めて・・・当時の生活を追体験する様な方法で、548日間も山にこもって撮影をした・・・という狂気の沙汰は伊達じゃない。

 ただ、そういう熱意やこだわりが良くない方に向かってしまう部分もあって・・・。

 終始、大仰な映像と音楽、音響が連続し、(時には複数の)登場人物たちが画面上で叫んだり語ったりを繰り返すのでウルサい。話が頭に入ってこないし、疲れる。間とか、緩急って必要だろ?と言いたくなる。
 やや展開がクドいし、愚鈍な人間と理不尽な展開も多いので(そこにも意味はあるんだけど)、観ていてイライラしてくる。
 後半、人が大分死んで静かになると、ようやく落ち着いて鑑賞出来た。

 熱狂的なファンがいるのも分かるし、当時のチェコスロバキア文化人には強烈な作品だったのも分かるんだけど・・・。
 チェコ映画らしく、シュールで残酷でグロテスク・・・そして美しい映画なのは確か。
木蘭

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