カラン

マルケータ・ラザロヴァーのカランのレビュー・感想・評価

マルケータ・ラザロヴァー(1967年製作の映画)
4.5
チェコの前身となるボヘミア王国、13世紀頃。ザクセン公国の一団が盗賊に襲われる。王の側はドイツ語を話す。襲撃したのは地方領主のゴズリークの手下というのか息子たちで、チェコ語。漁夫の利を得ようと、残されていた馬車を隣の領主のラザル一味が漁っているところに、ゴズリーク一家が戻ってきて、その後の争いに発展する。。。


神聖ローマのザクセン公国の一軍と、キリスト教を受け入れた領主と受け入れなかった領主が織りなす三つ巴の騒乱を描く。チェコの映画史上最高傑作であるとされている。本当に最高かどうかは分からない。チェコの事情に詳しくないので。カレル・ゼマンとか、シュヴァンクマイエルとかを生んだ土地だし。色々と未知な傑作は多いのかも。なんていってもプラハを擁する地域だからね。

モノクローム。冒頭の雪原を狼が疾走するのは、ライナル・サルネの『ノベンバー』(2017)に繋がっているかもしれない。また汚らわしく狂乱の蛮族たちはアレクセイ・ゲルマンの『神々のたそがれ』(2013)に繋がるか。

ローキーというのか、画面いっぱいに広がる雪原なのにコントラストがグラデーションに埋もれていて、目が痛くなったりしない、眩くないのである。カメラの露出が足りない、ずいぶんつまらないぼんやりした雪原だなと思っていると、幻視POVが挿入されて突然に画面が明るくなる。それでも、もう少しメリハリのある白黒のほうが良かったのかと思う。雪原って、何もないわけだからね。

フレーム内の要素数は、後半はかなり多くなる。梅なのかな、木の樹皮が織りなすまだら模様や、湿地を無限に覆う枯れたススキはしなだれて海面のようである。それからブードゥーっぽい呪いグッズとか、動物たちのディティール。汚れた人物たちのまとう衣装もだが、一本一本の髪の毛をとらえて、少女の美しい額をその眠りを邪魔しない程度の虫が這う。こうしたフレーム内の要素数の多さとその統合的な撮影は、ただものではないし、チェコ史上最高と呼ばれてもいいのかもしれない。ブロンドの美少女と、ボヘミアンな感じの褐色の少女が辿る恋愛の対比も立派である。両方とも脱がせている。顔面クロースアップが鑑賞後の今にも甦ってくるのはさすがである。

ロシアで、タルコフスキーは『アンドレイ・ルブリョフ』を、実は1966年には完成していたのだという。また、ジョージアのテンギス・アブラゼは『祈り』を1967年に発表した。本作『マルケータ・ラザロヴァー』はタルコフスキーやアブラゼの上述の作品を愛する人が観ると、普通、なのかもしれないが、東欧の映像作家たちが、それぞれに固有の宗教的対立と霊的な体験をスクリーンに立ち上がらせて描出する、一連の傑作群に入るのは当然であろう。もちろん、映画を反芻できない鑑賞者が駄作扱いするのは分かるが、それは鑑賞者の問題である。


Blu-rayで視聴。
カラン

カラン