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ボックストロールの秀ポンのレビュー・感想・評価

ボックストロール(2014年製作の映画)
4.0
ブラッドボーンみてーな街並み。

同じライカ作品の「コララインとボタンの魔女」や、ライカ作品ではないけど「家をめぐる三つの物語」が家の物語であったように、空間を立体物として作り出さないといけないストップモーションアニメは、本来こういう閉鎖的な舞台の方が得意なんだろうな。
改めて、壮大な自然をストップモーションで描いてみせたKUBOの凄みが分かる。

──内容について。

とんでもねー話だった。
この話は普通に見るのなら、人(ボックストロール)は変われる、性質は変えられる、という話だ。

ボックストロールが箱から飛び出したように、人々も偏見を取り去ることができた。のだけれど、変わり身が早すぎて正直鼻白んでしまう。うっすらと欺瞞の匂いがする。
そして今作の悪役は、変わることなく最後まで権力に取り憑かれていたために倒れることになるんだけれど、ここにも欺瞞がある。
だって彼が倒れた直接の原因は、どうしたって変えようのない体質(チーズアレルギー)のせいじゃないか。
人は変われるという信念が勝利する決め手が、まさにその薄っぺらい信念を喝破する、人は変われないという事実であるというのはなんて皮肉なんだ。

そしてなんの抵抗もなくするりと変わってみせた住民達は、偏見のない平等な世界で幸せそうに暮らしてみせる。当然その善良な市民達の中には、かつて悪役を軽んじていた権力者達も含まれている。
この映画が示している真のテーマは、「人は変われる」ではなく、「変われない人は消えるしかない」という端的な事実だろう。意地が悪すぎる。(補足1)

これは意図的なものだと思う。なぜなら駆除業者の部下の男2人が、あまりにもわざとらしく、偏見に囚われていた人々が改心する、収まりの良い物語の構図をベラベラと解説していたからだ。

こんなもん作りやがってどういうつもりなんだ?と思いつつ、ストップモーションという方式で、とんでもない労力を払ってこの悪意を形にしたライカに慄いた。

補足1
この映画を見て、「偏見は良くないと学べた!」と無邪気に言ってしまえる人をこそ馬鹿にしているような映画だ。

──その他、細かな感想。

・なんで主人公は人語を話さないトロール達に育てられたのに人間の言葉を喋ってるんだ?チョムスキーの生成文法か?

・マダムの演じる、ボックストロールについてのショー。ゆっくり傾いていく不安定なカメラワークが良いね。ボックストロールへの間違った偏見を目の当たりにした主人公の混乱が伝わってくる。

・ラストの部下2人のメタ的な語りと、それを操るスタッフのメイキング映像が最高だった。
彼らを動かす作業の大変さを知らされた上で、それでもおしゃべりを止めようとしない彼らを(というか彼らを動かす繰者を)見ていると、「もう勘弁してあげてくれ!」ってなるし、なんだか笑えてくる。

・サイモンペッグとニックフロストが声を当ててるって知ってたら、絶対字幕で見たのに。

・ライカ最高!
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