三樹夫

バクマン。の三樹夫のレビュー・感想・評価

バクマン。(2015年製作の映画)
2.9
漫画原作の映画だが、頑張ったのではという所には着地する。劇中出てくる実際の漫画もジャンプ作品だけに固まらないように意識はしていたと思うし。ただ集英社と小学館の漫画ばっかで結局一ツ橋グループやんとはなるけど。そもそも原作に問題ありまくりなので、その問題ありまくりの漫画の映画化にあたっては頑張ったのではと思うが、原作にある問題は内包されたままになっている。

この映画がどこに向かって走るかというと、一応設定されるゴールとしてはジャンプでアンケート1位を取って新妻エイジを倒すというのがゴールになる(ゴールつっても最終的には『SLAM DUNK』で見たやつみたいな終わり方だけど)。しかし劇中描かれる漫画がどんなものなのかあまり分からないのにアンケート結果が2位だの3位だのやられても、そんなの作者のお気持ち次第やんけとしかならず、どうでもよくなる。『ドラゴンボール』でいうなら殴り合いもせずひたすらスカウターの戦闘力数値バトルやってるだけ。アンケートで2位3位を取るに至る過程がなく、2位だの3位だの数字での結果しかない。唯一描かれるこういう戦略でアンケート結果を挙げましたとなるのが、亜豆をモデルにした可愛い女の子キャラ出しましたというだけで、これジャンプ読者はバカにされてるのじゃないかと思う。
そして新妻エイジとのバトルだが、漫画世界に新妻エイジ、最高、秋人の三人が入って鉛筆やペンを持っての演舞バトルという抽象表現になるが、ダッサい上に長いというある種の拷問が始まる。なんでこうなるのかというと、両方の描いている漫画がどんな漫画なのか観ている者はほぼ分からないので、演舞バトルという抽象表現になってしまいこの上なくダサくなる。
そもそもアンケートだの売り上げだのは観ているこっちはどうでもいいし。そら作家にとっては死活問題かもしれないけど、アンケート上位や売り上げが凄いやつが良い作品とは微塵も思っていない。アンケート全否定はしないが、アンケートを取り出すと最大公約数的なのが上位にくるとか、映画だったらしょうもないハッピーエンディングに変えられるとか負の面を現実問題として知ってるし。なのでアンケート1位は無条件で良いんだという気持ちに観ててならない。むしろちょっとバカにしてしまう。

ジャンプ美化とジャンプ崇拝とジャンプ至上主義が過ぎるので、その時点でバランスが悪い。疑いもなくジャンプが日本一の漫画フィールドということにしているのも疑問がある。ジャンプも完璧集団なわけではないし、現実でもあの会議で「アリ」とか言ってクソ連載をぶち込んでいるわけで、ジャンプを持ち上げすぎていて逆に滑稽に見えてしまう。
劇中のキャラの交わされる会話が、安西先生の台詞だの小暮の台詞だの、お前らあまり漫画読んでねぇだろレベルの薄っぺらいものになっている。ジャンプに偏り過ぎていて、お前ら別に漫画好きじゃねぇだろと思った。

『バクマン。』はリアルでもなんでもなくて純然たるファンタジーであり、リアリティのアリバイとしてジャンプにおいてどのように連載決定なされるかという蘊蓄を挿入するが、漫画界のリアルとして描かれるのはそれのみになっている。あとは才能あるキャラクターの才能バトルが延々続くだけ。ネームもコマ割りで苦労することなくいきなりできるし、構図に苦労することもない。唯一あったのは初めてGペンとかを持ったので慣れねぇとなったシーンのみ。あとはアンケートどうやったら上がるかというのを漫画の画で見せることもなく、次話はこういう展開でいくというので見せることもなく、こういった戦略でいくというので見せることもなく、ただアンケート結果が~位でしたと、数字の結果しか見せることができない。そのため観ていて退屈だし2時間が長く感じる。
また原作の時点でではあるが、劇中の漫画がどれも面白そうとは思わないのよね。特に主人公チームが描いているのが一番読みたいとも思わないし。『8 1/2』はロケットのどデカいセット見せてこの劇中劇を観てみぇと思わせるし、劇中劇だったり劇中漫画を面白そうと見せられないのは単純に作り手の腕だと思う。
新妻エイジは原作の時点で大概痛かったが、それを実写で出されるとキモ過ぎて無理。戯画化されたキャラは漫画だとまだ許容できるというのがあるが、それを実写用に再構成しないままに出されるとただの気持ちの悪いあり得ないキャラがそこにいるだけで、ただただキショい。

ミソジニーという原作最大の問題で心底気持ち悪いのは、これはさすがにと思ったのだろう映画化にあたりカットされている。代表例が秋人のミソジニー全開の亜豆および岩瀬評で、これは10年以上前からキモすぎと批判されていた。しかし全開になっているミソジニーをカットしたこの映画も、唯一の女性キャラは亜豆のみでしかも優れた漫画家になったらのご褒美というトロフィー扱いになっており、典型的なホモソーシャル世界になっているのは原作と変わらない。
原作者は全く言い逃れ出来ないが、一方で編集者はその時何も言わなかったのとジャンプ編集部のホモソーシャル問題も浮かび上がってくる。浮かび上がってくるというか、数々の編集者の証言からホモソーシャルなのは間違いないし、2017年には性的イラストを女子トイレ入口に掲示した、ホモソーシャル内で起こる典型的なセクハラを起こしている。「友情・努力・勝利」とか耳障りのいいこと言ってるけどミソジニーを思いっきり内包してる現場やんと、漫画や映画内での美化ぶりとは違う現実があるわけで、ジャンプは決して諸手を挙げて褒められるものではないと思う。

主題歌はサカナクションの「新宝島」だが、米米CLUBの「Shake Hip!」が流れ始めたのかと思った。まあ「Shake Hip!」も元ネタはLet's Activeの「Every Word Means No」だったりするけど。
三樹夫

三樹夫