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アメリカン・スナイパーのKBのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.0
戦場よりも恐ろしい戦争後遺症を描いた作品だと思います。米軍で「伝説のスナイパー」と呼ばれた男、クリス・カイル著の自伝を映画化したもの。イーストウッド監督作品ではこうした実話を基にした作品が多くあり、歴史の裏側を知ることができるので素晴らしい。

主人公のスナイパー、クリスはイラクへ合計4回派遣され、米国史上最多の160人を射殺した英雄といわれている。しかし一方では、愛する妻と子どもを持つ、一人の父親であったということを、この作品では描きだす。

彼はなぜ、身の危険を顧みず、何度も戦地へ行ったのか。
一つは愛国心と復讐心。同時多発テロを機に、多くのアメリカ人が志願兵として戦争に行き、敵討ちを誓っていた。

もう一つは、仲間を守るため。彼の任務は、狙撃によって仲間を守ること。撃つことに罪悪感はない。ただ淡々と狙いを定め、仲間のために引き金を引く。

だからこそ、最も辛いのは、仲間の死だった。映画のシーンでも印象的だったが、仲間を救えなかった後悔は、戦場はおろか、帰還後の生活のさ中に襲ってくる。彼らを救うためには自分が敵を撃たなければという幻想に駆り立てられていた。クリスもまた帰還兵の後遺症であるPTSDに苦しみ、心を病んでしまっていた。

戦争は人間の善悪の判断をおかしくしちゃうんだなと思う。一度行ったら心に傷を負わない人はいない。周りで殺し合いをしてるのが普通の環境にいると、気付かないうちにそれに慣れてしまって、現実に戻った瞬間にとてつもない虚無感と、刺激のなさで、また戦場に呼び戻されるみたいな。この過程で心がどんどん蝕まれていくんだと思う。

奥さんもいて子どもも育てている優しいお父さんが、任務とはいえ戦場で女性とか子どもを撃ち殺して平気なわけがない。でも、心を病んでなかったら何度でも戦場に行ってたんだろうなとも思う。

本作はPTSDを強調して描いている作品であり、戦場を知らない私たちにもその恐ろしさを教えてくれる。クリスさん本人も、こういう事実が広く認知されてほしいという思いで本を書いたんだと思うし、帰還兵の支援もされていたということで、本当に亡くなったのが惜しまれる方だと思います。
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