テオブロマ

アメリカン・スナイパーのテオブロマのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.3
安心と信頼のクリント・イーストウッド。かなりきつい内容だけど、適度に笑い所を入れたり、クリスと敵スナイパーとの分かりやすい対決構造を作ってくれたりしているので、戦争ものとしては比較的観やすいように思う。

子持ちには観るのがかなり辛いシーンが数ヶ所あり、1番ひどいあのシーンはもう2度と観たくないと思った。現地の武器商人も何を陳列してるんだよ。センス最悪だよ。

主人公クリスは初めて少年を狙撃した時あんなにショックを受けて苦悩していたのに、任務を続けるうちにそういった人間らしい心がどんどん破壊されていく。変化していく彼を見るのは恐ろしかった。一時的に体が戦場から戻ったとしても心はそちらに置き去りにされたまま、家族とも真摯に向き合えない。祖国や家族の元にではなく戦場に帰ってこられて嬉しいと言ってしまった頃からもう戻れなくなってたんだと思う。明確なきっかけはドリルの虐殺者だけど、あれがなくても似たようなことが起きていずれああなっていただろうな。

妻があんなに苦悩してただそばにいて欲しいと懇願しているのに、なぜそれだけの願いが聞けないんだろう。妻の気持ちが痛いほど分かるので本当に辛い。クリスは葬式でもサングラスをかけたままでどんな目をして何を思っているのか見えない。スコープの先に捉えたのがまだほんの少年であっても、狙撃対象となった瞬間はっきりと目の色が変わるのが恐ろしい。本当は撃ちたくないので銃を捨てろと何度も念じているのに、スコープを覗く目とトリガーにかけた指は完全に冷酷な狙撃者のそれで、心と体の乖離を強く感じた。

退役後もクリスは軍のシンボルを見にまとうのをやめないし、同じ戦地に赴いた軍人達と過ごすのもやめない。ようやくPTSDを克服して心も戦場から戻ってこられた(ように見えたけど、本当にそうなのか?)と思ったら…。

向こうのすることが本当にひどいのでつい米軍側の正義を信じたくなるけど、やってることだけを見ればどちらも同じ殺戮に過ぎないし、正義も悪も視点によって180度変わってしまう。敵も味方も全くわからない砂嵐のシーンは印象的だった。そもそもそんなものないのかもしれない。バカみたいな言葉しか出てこないけど、やっぱり戦争は恐ろしいし世界のどこでもそんなものが起きなければいいのにとシンプルに思う。でも無理なんだよな…難しいなぁ…。

きつい作品だけど観る価値は十分にあるし見るに耐えないほどの凄惨な描写も大してないので、そこそこ誰にでも勧められると思う。精神的に余裕のあるときに観るのがおすすめ。
テオブロマ

テオブロマ