イーストウッド監督作品。イラク戦争で160人を射殺した実在の米軍狙撃兵クリス・カイルの伝記映画。
アリー/スター誕生でブラッドリー・クーパーの演技がよかったので再観賞。
2015年当時、多くの議論を呼びながらもR15指定としては異例の大ヒット。戦争と軍人のメンタルについて描写した映画なので日本人にはあまり身近でないテーマではあるが日本でもヒットした。
主人公のPTSDに着目してみると、仕事が過酷で精神を病みかけている人には重なる部分があるかもしれないです。
<以下、ネタバレあり感想>
【1】製作経緯
本作は実在のネイビーシールズ狙撃兵クリス・カイルの自伝を映画化した作品。当初、製作陣はクリス本人と打ち合わせを重ねながら脚本を完成させていった。
ところがそのさなか、突然の悲劇が。
イラクから4度も帰還した伝説の男クリスは自国内で射殺されたのだ。英雄の死は全米の大ニュースとなり、本作の運命は急展開する。
ハッピーエンドとなる予定の映画のエンディングはまさかの結末に修正。クリスの妻タヤの全面協力を得て、物語は単なる戦争映画ではなく、戦争と家族の両面を描いた作品に大きく変更されたのだ。
そして監督は、クリスが生前憧れていたイーストウッドにオファーされた。皮肉にも、クリスに起こった悲劇によって、本作は劇的な作品へと仕上がったのだ。
彼の2人の子供たちは、この映画を生涯大事にし続けることだろう。
【2】主人公クリスについて
嫁タヤをバーで口説く際の声のかけ方やその後距離が近くなっていく中での会話がとてもよい。
短い描写だけれどクリスという人物の本来のキャラクターをしっかり見せてくれている。
そんな彼が戦争の緊張感から別人のようになっていく姿が印象的。軍人の精神状態を想像することなどできないけれど、ワークライフバランスって大事だよなって改めて思った。
終盤、少しづつ心を取り戻したことで彼から緊張感が失われ、悲劇につながったのかなと考えると複雑。
ブラッドリー・クーパーは精神を病んでいく演技をさせたら超一流。クリスになりきるために20kg以上増量して挑んだ本作は、生前のクリスとうりふたつの熱演だ。
【3】戦争描写について
それなりに緊張感はあるけれど、割とエンタメ化されていたなという印象。クリスやライバルのムスタファがのぞくスコープ目線のカットが効果的に使われていた。
ボーダーラインなどと比べると、心臓がバクバクするような感覚はさほどなく、ほどよく映画としてわかりやすくアレンジされているという感じ。
最終盤でムスタファを撃ったことで敵兵がワラワラと建物に終結してくるシーンはゲームみたいなノリでなんかわけもなく笑ってしまった。
ラストショットのスローモーションの演出はいらなかったような気がしなくもないです。あえて淡泊なほうがよかったと思う。
ただ、彼との決着をつけたことでクリスの中で緊張の糸が切れたのか、銃を置いて泣きそうな声で妻に電話してしまうくだりはなんだかグッときてしまいました。すごくよかった。
その後砂嵐でなにがなんだかわけわからない映像になるのも、あそこで気持ちが切れてしまったクリスと観客の気持ちが重なるのですごくいい演出だったと思う。
【3】減点ポイント
従軍から帰国するたびに妻とすれ違っていくシーン、終盤のクリスはかなりおかしくなっていったけれど、妻が最初からきつくてなんだかひっかかってしまった。
戦地の極限の状況で長期間すごしてから帰国したらすぐにスイッチを切り替えることができないのは当たり前。
仕事に忙しい夫が、帰宅して家族にひどい態度をとってしまって衝突するという展開は映画の世界でも現実世界でもありがちだけれど、序盤は言うほどクリスの態度はひどいわけでもないのに、妻の接し方が割とひどくて少し違和感を感じてしまいました。
映画の本筋とずれてしまうから尺をとらなかったのだと思うけれど、1人で孤独に出産や育児に苦戦している彼女の姿を描いていれば見え方が変わったのになと思います。
もしくはもっとクリスにひどい態度をとらせるとか。
ただこれだと観客の心がクリスから離れてしまうので難しいところではあるが。
【スコア】
★3.0で。
9.11後のアメリカで生活している人かどうかでだいぶ評価が変わりそうな作品です。
作品とは関係ないですが、正月に自宅にサブウーファー付の大きいサウンドバーを導入したので戦争映画がいいなと思ってチョイス。
銃撃戦は低音ズンズンの大迫力でGoodでした。