yurika

ナショナル・シアター・ライヴ 2015「フランケンシュタイン」のyurikaのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

NTLive10周年記念の上映で、ベネ様怪物verを観た。
冒頭の怪物の誕生シーンで一気に引き込まれた。痙攣し、のたうちまわり、全身の動きに戸惑いながら少しずつ起動していく、おぞましさと応援したくなる愛しさ。無言の、人一人の表現だけでこんなにも引き付けられるものかと…!!!
今まで見たことのないベネ様の演技に、もはやベネ様とも思わずそこにいた怪物の世界にぐんと引き寄せられた。

見るもの全てが新しく喜ばしいこの純粋で愛しき怪物が、人々に迫害され世の中の残酷さに直面する中で、一人の優しい老人と出会い様々な物事を知っていく。
しかしとある出来事をきっかけにパニックになった怪物は、老人と学んだ「復讐」という知識を純粋に利用し、無垢な生き物ゆえに人々が決めつける通りの"怪物"へと変貌していってしまう。

「人は生まれたばかりのときは無垢で善良。しかし成長するうちに様々なことを知り、悪へと染まっていくのだ」という性善説のとおり、知識を得れば得るほど、怪物の世界が広がれば広がるほど、純粋で幸せだった怪物がどんどん世間の想像通りの「怪物」になってしまうのがとても辛かった。

長くなってしまうのであとは割愛するが、観賞後は暫く心がざわめき落ち着くまで時間を要してしまうほど、色んな感情と思考が荒れ狂う作品だった。
愛とは何か、どう生きればよいのか、幸せとは何なのか。
ひとりの愛しくておぞましい怪物と、ひとりのどうしようもなくて不器用な博士。
いびつなふたりは本当の愛を知らず、しかし自分の心に湧く「愛」を知ってさえいれば、心に余裕をもってゆっくりと周りを見渡すことさえできれば、差しのべられた愛はそこにあったのにと思う。
そんなふたりは結局いびつなままふたりきりの世界に逃げることとなる。

もがき苦しみ続けたいのちに「あのときああしてればよかったのに」と思うことはあまりにも残酷だけれど、それでも願わずにはいられない。醜い世界を知ってほしくなかった、少し立ち止まってみてほしかった、幸せに気づいてほしかった。

かなしくて愛しい、ベネ様の怪物の物語をみれて本当によかったと思う。
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