YasujiOshiba

狼は暗闇の天使のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

狼は暗闇の天使(2013年製作の映画)
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シチリア祭り2。

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』がよかったものだから、ファビオ・グラッサドニア&アントーニオ・ピアッツァ監督の前作をキャッチアップ。2014年のイタリア映画祭に『サルヴォ』のタイトルで紹介されたもの。DVDにて鑑賞。

このシチリア出身のコンビ監督は映画と自分の故郷のことをよく知っている。だからこそ、映画のジャンルを巧みに借用しながら、誰もが目を閉じている街のなかで、違った風に目を閉じている二人を主人公に、目の覚めるようなクロスジャンルの映画を撮ったというわけだ。

サルヴォを演じたサーレフ・バクリがパレスティナの俳優であることを覚えておきたい。この寡黙で背の高い筋肉質の男は、同時に不思議な奥行きをその瞳に讃えるマフィアの殺人マシーン。人を殺すことになんの罪の意識も見ない精神的な盲目なのだが、ほんとうに盲目の女リータと出会ったとき、その目から何かが落ちる。

リータを演じたサーラ・セッラヨッコが見事だ。ローマの映画実験センター出身だという彼女、この役のため実際に盲の人と暮らしてみたというだけある。その演技は演技を超えるリアルさで、肉体的な盲が精神的な盲と共鳴しながら開眼する様に説得力を与えるのだ。

実のところ映画が描いているのは、リータとサルヴォの盲ではなくて、その二人を取り巻く世界の盲。実際、マフィアのボスを演じたマーリオ・プペッラや、サルヴォの世話を託されたクリーニング店の旦那のルイージ・ロッカッショが、シチリア的な盲目ぶりを見事に演じてくれているのを見逃してはならない。

ラストシーンでぼくらは、目覚めた視界の庭の壁の向こうに広がる、まるでレオパルディのような「無限」の海を見ながら、そしてその風景が昼から夜、夜から朝へと移ろうなかで、彼を残して彼女が去り、ふたたびあの闇が広がる不気味さを感じることになる。なるほど、これが内側からの視点なのだ。

そしてこの両監督は、続くシシリアン・ゴースト・ストーリーでは、寓話というジャンルによって、その闇を照らそうとすることになるわけだ。
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