パイルD3

フレンチアルプスで起きたことのパイルD3のレビュー・感想・評価

3.5
【あーヤダヤダ、という映像の感触】

「落下の解剖学」に映し出される雪山は、フレンチアルプスのかなり端っこの方だと思いますが、雪山のアクシデントと言えば、即座にこの思い出したくない映画を思い出しました。
 
リューベン・オストルンド監督の作品は、観ている間はかなりひねくれた感性がおもしろくて、グイグイ入り込んで高揚させられるのですが、後から思い出したくない類いの特有の不快感があちこちに仕込まれています。

リューベン監督は観る側の興味本位の心理を腹立つくらい心得ているので、いいように引き摺り回されます。

毎度描かれているのは、どこまでも尽きない人間同士の不信感、男と女の不理解と欲望の構図、嘘八百、立て前と本音のギャップ、傍観、無視、卑屈、そして自己利益への選択といった、日常生活の中では自分自身の事となると距離を置いている振りをして、他人事となるとギンギンに興味津々で覗きまくるようなことばかり。
観客は野次馬と化し、こんなのちょっと見たことない、という感覚に陥ります。

てことは、これはかつてなかった新種のエンターテイメントということになると思いますが、新食感ではあっても美味しい料理では決してありません。

もはやこの世の不愉快と思われるもののセレクトショップ・ムービーとでも呼びたくなります。
何て人間は下世話な生きものだと再認識させられて、少なくとも私はなかなかもう一度観たくはならないわけですが…ですが…が…

しかし!新作が出たらコソコソ覗きに行ってしまうんですよ、あーヤダヤダ。
このあーヤダヤダこそが、リューベン・オストルンド映画が巧みに仕掛けてくる混迷の罠です。


【フレンチアルプスで起きたこと】

出だしがおもしろい、この監督は毎度何についての話かドラマの最初の方でサインを出す。この作品だと、写真。

冒頭、スキー場で観光客相手に荒稼ぎしているであろう写真屋が、有無を言わせぬ流れで家族の全員写真を撮る。
言われるがままに、みんなニッコリの幸せ家族の記念写真が完成、明らかにこのファミリーの話だとわかるのだが、このニッコリニコニコは写真屋に作られたもので、ある意味ニセモノ、ここからその仮面が剥がされて実像が見えてくるお話。

更に写真が登場する。妻が1人で写真を見ていて、子供たちの写真が2枚…
「これはいいわね」と言う。
次に夫婦2人で撮った写真が1枚…
無言無表情、少なくとも嬉しそうではない。
ここで、この夫婦の付けた仮面の話に集約されることを予感させる。

その仮面を剥がすきっかけとなるのが、観ている側が愕然とする特大アクシデント。
間違いなく誰もが“ええっ⁉︎“となるのだが、

スキー場の氷雪を破壊するダイナマイトの仕掛けミスか何かで、主人公の4人家族や観光客のいるロッジへと轟音けたたましく雪崩が突っ込んでくる…と思いきや雪崩はギリギリのところで止まって、客たちは一安心するが、家族の父親がとった信じ難い行動が、雪崩以上のデカい波紋となって家族を追い込んで行く…というお話。

この父親の行動は、ヤ〜な感じそのもの。
もう特大級の人間不信行為と言ってもいいことをやらかす。

…これ以降は実際に映画を観て、この家族と共にヤ〜な気持ちを味わうしかありません。

友人夫婦の思いやり深い雰囲気が好感が持てます。この人たちが出てこなかったらどうなっていたんだろう?と思わせます。
こんな救いの手に値する人物を織り込んでくるのもリューベン監督の特長のひとつですね

私は最後の流れが全くよくわからなかったのですが、ブラックなことはわかりますが、あれは意味があったのか?無かったのか?それすら理解不能でした。

これはこれでありか、ま、いいやという
納得の仕方で合っているのでしょうかね?
パイルD3

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