たけき夏アニメーション

フレンチアルプスで起きたことのたけき夏アニメーションのレビュー・感想・評価

4.8
ついに出た!本年度ベスト候補!
(※長文です)

所謂、夫婦間男女間での末恐ろしいまでの価値観・役割についての映画である。
語弊ありきで言うと、夫婦喧嘩映画だ。

近年でも『ブルーバレンタイン』『ラビットホール』『ゴーンガール』『エスケイプフロムトゥモロー』と、
様々な傑作夫婦間映画があり、それぞれが各々の地獄へと向かっていった。

本作の主軸となる家族間での不和や、問われる父親性といった事はパンフレットやレビューで散々語られているし、一人語りしても無意味かもなのでこんくらいで省略。


まず、舞台が雪山の高級スキーリゾートホテルというのが素晴らしい。
家族で旅行した時にこういう嫌な事ってあるよね!!
わざわざ高い金払って楽しみに来た場所なのにどんどん喧嘩ムードになっていって(それは夫婦だけでなく、子供たちまでもそうなっていく)、かろうじて"家族スキー旅行"としての体裁をとろうとする。
「今日は一人で滑ろうと思うから…何かあったら電話して」みたいな。
"スネる"という言葉が一番適切かも。俺も家族でスキー行った時こういう経験ある〜!


中盤非常に興味深い展開があった。(少しネタバレ注意)

家族の不和に居心地の悪さを感じる夫が、リゾート内で出会った別の男と二人でスキーやビールを楽しんだり、逆ナン(?)されたり、「クソ野郎!死んじまえ!」と無意味に雪山へ叫ぶ事で一時家族から解放されるというシーンだ。
(逆ナンシーンのEDM音楽使いのバカさ軽薄さ、そして適切さ!)

その後、夫はリゾート内で家族と合流できず、部屋にも入れず、仕方なくふらついていると半裸の男たちが踊り狂う雪上クラブ(?)にたどり着くのだが…
この後、部屋に戻り奥さんへの過剰なボディタッチを経て、本作一エクストリームな修羅場シーンへとなだれ込む。

この一連の流れは非常に見事で、僕が先日友人たちと議論を交わした、
「男だけで旅行や盛り場へ行くと無性にムラムラしてきて、帰ってきた時に彼女や奥さんに体求めがち」論を巧みに表現している。

なんなんでしょうねあの感じ?
解放的な空気に性欲が高まり、その場を共有した女性としけ込むならまだしも、そのムラムラを抱え込んだまま家で待つパートナーに自分勝手にその欲望をぶつけるとヘンな空気になる(=気持ち悪いと思われる)という訳でしょうか。

しかも本作では夫婦間に不和がある状態でそれをやっちゃったので、余計悲惨な事になったのですね…。
ホント、旅行中の解放感からくるムラムラの処理方法にも注意が必要です。


ラスト、帰路に着こうとするある乗り物のシーンでは、比喩でなく満員の劇場がジェットコースターと化した。
ここ最近で一番映画館でヒヤヒヤした瞬間だ。隣の人なんて「ヒッ!」って声出して椅子から飛び上がっているほどだったし、劇場全体がヒステリックと言っていいほどの異常な空気に包まれた!
我々劇場の観客は、あの乗り物の乗客と完全に一体となっていたのだ!

シニカルで秀逸なドラマだけでなく、こんな肝が潰れるほどの物理的(しかしここでも男女間の極めて難解な差異も描かれている!)サスペンスシーンも見せてくれてありがとう。


P.S.
途中、去年公開された『ボーグマン』(富裕層家庭にボーグマンなるホームレス的な人々が闖入してきて家庭が壊れていく話)に出てきそうな、薄汚れた長髪に髭というボーグマンスタイルの男とその彼女が介入し、彼らと交わされる男女の価値観についての議論を通じて家族の事態がどんどん悪化していくのもまさに『ボーグマン』ぽいななんて思ったり。