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郊遊 ピクニックのKKMXのレビュー・感想・評価

郊遊 ピクニック(2013年製作の映画)
4.2
 台湾の内田裕也ことツァイ・ミンリャンの商業作品引退作。本作も商業作品とのことですが、いつも以上にエンタメ的な要素はゼロで、完全なるアート作品でした。
 本作は初期作品に比べると極限まで研ぎ澄まされており、凄みを感じます。惨めギャグはほとんどなく、伝わってくるのは痛みでした。


 ミンリャン作品は常に痛みを感じさせるのですが、俺がこれまで観た初期作品はあくまでも個人レベルの痛みで、惨めな人生を送って後悔して泣く、みたいなノリです。なのでそこまで没入できないんですよ。逆にそれが面白おかしく感じるのですが。
 しかし本作は関係の崩壊の痛みが語られていると感じました。なので、痛みの深さが違う。そしてそれを物語に託さずに、ほぼ映像のみで描き切るミンリャン監督には脱帽です。

 今回のシャオカンは2人の子どもを持った父親。母親はおらず、ひとりで子育てしてます。仕事は看板持ちで、極貧のため廃墟に住んでます。廃棄される弁当をもらってなんとか命をつないでいる惨状です。
 当初シャオカンは子育てなんとかしようとするのですよ。娘ちゃんの身の回りを見ても、かわいいポーチとかキティちゃんとかあるし、気持ちはあるんだろうなぁと感じます。
 しかし、生活に追われて限界が来ます。モデルルームに忍び込んで一晩過ごしたあたりから、自分の人生の惨めさを抱えきれずにシャオカンは崩壊。雨の夜にお兄ちゃんをなじるシーンはなんか辛かった。結局心中を計画するし。
 シャオカンの人生がクソなのはどうでもいいです。キャベツ食いシーンは惨めギャグの遠縁って感じでしたし。しかし、親子関係が切れるのは痛い。描く痛みがより本質的になっています。

 ラストの壁画を前にしての超絶長回しも痛かった。元妻とシャオカンが完全に断絶してしまったことをこってりと表現してました。幸せな時代もあったんでしょうね。しかし、もう絶対に無理な状態で、そしてこれからの希望は1ミリもない。ホントにこれは痛かった!
 壁画がまたドン詰まりなんですよね。手前に川があって、その奥の岸は石ばかり。その奥に暗い森とおぼろげな連山が描かれているという…この絵から連想するものはズバリ鬱です。きっつ〜。


 ミンリャン作品の中では本作が代表作になるのでは、と想像します。アート系映画のひとつの完成型ではないでしょうか。物語らない映画だし、観辛い作品だとは思いますが、語り継がれる1本だと確信しています。


【その他気になったこと】

・妹ちゃんがラブリーで和む
 この重苦しいガーエーの中で、ちびっ子の妹ちゃんはかわいくてホッコリします。そもそもミンリャン作品で子どもが出るのはレアでは?初期作品では登場しなかったと思う。
 子どもが出演するからこそ、より深い痛みが浮き上がると感じました。

・シャオカンがトランクスを履く
 シャオカンといえば白ブリーフなのですが、本作では普通のトランクスだった。シャオカンもオッサンになったので、ミンリャンのフェチから外れてしまったのかもしれない。

・『愛情萬歳』との類似性
 モデルルームに忍び込むところは『愛情萬歳』と一緒。バスタブにつかるシーンとかも既視感あった。オープニングに何故か『愛情〜』でガン泣きした不幸エロ女が髪を梳っていたので、さらに近いように感じた。
 不幸エロ女はこのシーンしか登場せず、残念。結構好きなタイプなんだよね〜薄幸で艶っぽいので。

・看板持ち
 これはシンドい仕事のようです。以前フィールドワークをしたことがあり、その時に看板持ちをしていた方の話を聞いたことがありました。その方は風俗の看板持ちでしたが、日常的に通行人から侮蔑的な言葉を吐かれていたそうです。そのため人間への不信感が募ったそうです。
 シャオカンはモデルルームの看板持ちなのでそこまで酷い目に遭ってないかもですが、ネガティヴをぶつけられやすい仕事だとは思います。雨の中で漢詩を口ずさむ鬼気迫るシャオカンの姿は非常に重苦しく、印象深いです。
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