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アルゲリッチ 私こそ、音楽!のpurigoroのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

(※星☆は自分の中の付け方。特筆すべきものじゃなかったら、☆0。☆がついているものは全て良かった映画。細かく星をつけていくと大変なので、低評価のものは☆無し。)


正直、最初はあまり期待していなかった。良くある、波乱万丈な芸術家を追って、母親でもあり、芸術家でもあり、こんな人生なんです、というのをもっともらしくまとめたドキュメンタリーかと思っていた。

しかし、ある意味そういう内容のものだったかもしれないが、中身は想像以上に奥深い内容だった。

アルゲリッチ自身が、ドキュメンタリーの内容や作り方に依らない相当な魅力を持った人物であるということが大前提ではあるが、ドキュメンタリーの作り方が非常に優れていると感じた。

やはり、3人の娘(しかも、それぞれ違う父親で、それぞれがアルゲリッチとは関係性が異なる)と、元夫でありピアニストを通して見たアルゲリッチ、そして彼らの言葉というのは、他の誰も出来ない視点だ。
ほとんどを3女にビデオを回してもらって、会話形式でドキュメンタリーが進んでいくという手法があったからこそだと思う。
アルゲリッチの父母についての話題も出てきて、アルゲリッチを取り巻く個々の人物の関係性を探ることで新しいアルゲリッチの面を見ることが出来た。

みなさんのレビューが全部とても私の気持ちを代弁してくれている。私はまだ、この映画の内容を自分の中で消化&昇華できていない。

なので、とりあえず印象に残ったシーンをメモしておく。


●中盤、3女がアルゲリッチにインタビューするシーン

アルゲリッチ:
シューマンが好き。ベートーベンもだけどやっぱりシューマンね。モーツァルトやシューベルトとは違う。難しい関係ね。特にシューマンは。何というか直に何かを感じるのはシューマンね。私の心の奥に直に触れてくる感情。魂の動きというか。すごく自然に突然に現れるの。



Q. 同じ曲を何度も弾いて、退屈することはないか?

A.
全然。音楽を聴くときと同じ。
いつも何か新しい発見がある。
新しい何かを感じとる。
練習のときは、なるべくそうじゃない方が良い。

でも年をとると、ある種の能力が落ちてくる。肉体が老いるように演奏にも老いが出るの。
でも、音楽との関係はいつも新しいわ。
愛と同じね。


●3女の父親でもある、ピアニストと話すシーン
「問題は、どっちか決められないことだ。僕らは男同士か、女同士か? それが混乱の元なんだ。」
「僕らには気楽で叙情的な時間がなかった。ときには深く暗く激しかった。たまに明るくリリカルだったが、でもそれが僕には必要だったんだ。こういうと自分がバカみたいだが、あまりに真面目すぎたんだな。」


アルゲリッチの音源と、次女の父親の指揮者のシャルル・デュトワの音源をそれぞれ持っていて聞いていたが、この映画を観てから聴くと、また今までとは違った角度から聴くことが出来そうだ。

若い時のアルゲリッチをちゃんと観たのは初めてだったので、彼女にも若い頃があったんだーと不思議な気持ちになったが、若い頃の彼女は、今もまだ存在するかのような存在感があった。若い時の映像を観ないと、今の彼女を知ることは無理だろうなと思った。それくらい、過去の彼女が今の彼女に影響を与えている気がした。(同じ人なんだから当たり前なんだけど。)

途中2度程出て来た、「ヤコブ師のダンス」というのが奇妙で面白かった…。。

アルゲリッチの母親の人物像もとても興味深かった。

自分自身も音楽をしているので、数年後、数十年後にもまた自分が年を経るごとに観たいドキュメンタリーだった。
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