尿道流れ者

海街diaryの尿道流れ者のレビュー・感想・評価

海街diary(2015年製作の映画)
4.0
今は手元に無くて、実家で多分埃をかぶっているだろう本、カフカの手紙やノートに刻まれた断片が収められた一冊の本がある。そこにある印象的なフレーズとして、「何ごともなかったかのように元の作業に戻った、しかし何ごともなかったかということはありえない」というような文章があったと思う。それは警鐘というべきものとしてまとめられて、なおかつまさに何ごともなかったかのようなただの一文でまとめられているものだった。

この映画を見ている間そのフレーズがずっとリフレインしていた。気には留めていなかったような一瞬、それですら永遠になるような空間の持つ意味が常に僕を悩ませていたように思う。

何として捉えられてしまうかはひとそれぞれの価値観によるし、それは貴重でつまらないものになりうるが、全てがそこにあって何もなかったという感覚は多分共通のものとしてあると思う。

ただ、そこにある変化、些細なものでつまらないかもしれないが、それが面白いと思ってしまう。なんだか、とてもたまらなかった。善悪を超えたルーツへの畏敬や、少しの切なさはとても心地よく響いた。

物語としては、自分の好みで言えば、少々動きが大きすぎたように思えるが、とても優しくて、元気のもらえるものだった。人間はまともに正しくなんていられない。