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海街diaryのmasayaanのレビュー・感想・評価

海街diary(2015年製作の映画)
4.4
これは「記憶」をめぐる映画だろうと。食べ物のレシピに宿る記憶、人の残す言葉に宿る記憶、ある風景に宿る記憶。コンテンツそのものではなく、そこに宿る記憶の肯定。「知識」ではなく「記憶」だと言ってしまえば反動的な物語と思えなくもないが、しかし戸籍上の、あるいは生物学上の共通の父を持つ、ということに過ぎない不確かな姉妹は、それらの記憶を共有することによって頼りなくも結ばれていく。監督の見据える主題が「家族」から少しだけ大きな「共同体」へと移っていくのを感じた。

そして、これはささやかな贈り物に過ぎないのだが、トリュフォーや小津・成瀬は言うに及ばず、これまでの是枝映画そのものを含む映画という歴史に宿る記憶を通じて、たとえ原作漫画という記憶を持ち合わせない僕のような人であろうと、観客はスクリーン上に形成される淡い連帯へと心地よく溶け込んでゆくだろう。(したがって、映画的な記憶はともかく、日本的な記憶を共有しないカンヌの審査員にこの映画が届かなかったことを嘆くべきではないだろう。素材としてはどこか『となりのトトロ』的でさえあるのだから。)
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