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虐殺器官のphowaのネタバレレビュー・内容・結末

虐殺器官(2015年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

68 / 100
パッケージ      ☆☆
普遍性        ☆☆☆☆
映像センス      ☆☆☆☆
社会性        ☆☆☆☆☆
ビジネスとしての成功 ☆☆

※以下、レビューではなく、振り返りの為の覚書
【あらすじ】
2015年のサラエボのテロから2020年のグルジア内戦まで、アメリカ情報軍の特殊部隊が虐殺の首謀者を捜索し、ジョン・ポールというアメリカ人言語学者を追跡します。ジョンは、虐殺を司る器官とそれを活性化させる「虐殺文法」を明かし、自らが世界を平和な場所と殺伐とした場所に分けることを目指していました。ジョンは最後に捕まり、彼の意志と「虐殺文法」をクラヴィスに託します。クラヴィスは公聴会で「虐殺文法」を発動し、物語は終わります。

【JohnPaulの目的までの筋書き】
1. 起こり
MIT在学時に、虐殺には或る特殊な匂いがあると気づき、Nazi政権下での公文書、ラジオ放送などの文章の束を解析した結果、虐殺には特定の「文法」が在ることを発見。この「虐殺の文法」は言語の違いによらない、言語を使う者すべての人間に該当する点で、生得的文生成機能と共通している。
1'. 「生得的文生成機能」について。
奴隷労働が合法だった時代、さまざまな地域から集められた奴隷たちは、言葉が通じないまま労働を強いられていた。やがて彼らは主人の英語を聞き取り、単語の羅列で英語を話すようになり、それはピジンと呼ばれた。ピジンを母国語として育てられた子供たちは誰に教わるでもないのに文法を獲得していた。しかし、彼らの子供たちはピジンにはない文法を獲得し、英語を話すようになった。つまり、私たち人間には生まれながらにして、目や心臓、肺のように文を生成する「器官」があることを意味する。※言語学では普遍文法と言うらしい

2. 虐殺の文法(虐殺器官)とは
虐殺の文法とは、人の生存本能に恣意的に干渉し、虐殺を起こすよう煽動することができる深層文法だ。※深層文法とは、あらゆる虐殺が行われた国の公文書やラジオを通し散布された言葉を解析することで発見された、言語や文化にとらわれない、虐殺を引き起こす文法だ。
Paulの説明によると、
・人類集団的生活を行なっていなかった時代、干ばつなどの自然災害の経験を通し、人々は農耕や放牧など集団で共に暮らす方が生存率が高いことを知り生活共同体を作った。これが文明の走りだ。今日では食べ物に困ることなく、生活は原始時代と比べとても豊かになり、世界人口は80億人を超える。
→これはつまり、他人が狩ろうとする獲物を利己的に奪うより、力を合わせて利他的行動をとった方が生存率が高いことの証明だった。
・しかし、今日、我々が直面する最も大きな問題の一つとして、食料問題がある。ここに大規模な干ばつが起こってしまうと、膨れ上がった人口を十分に生かすだけの食べ物がない。
→そうすると、今度は人類は利己的な行動に移る。生き残る為、生存の手段が他者から食べ物を奪うしかなくなる。

逆の生存適応(利他的→利己的)の本能を促すのが虐殺の文法であるらしい。

3. John Paulの目的
彼がテロの火種を撒く理由は二つある。
1つ目、世界を二分し、平和な世界への危害を抑えるため。
彼は、決して虐殺本能が人間の本質であり、それを証明するためにテロを行なっているわけではない。スターバックスでコーヒーを飲み、Amazonでショッピングを楽しみ、見たいものだけを見て、食べたいものを食べる、そんな堕落した人々は彼は愛していた。テロリズムが力を持つ社会とは、すべからく政権の堕落した社会だ。例えば、9.11を指導したとされる、アルカイダのオサマビンラディンはアフガニスタンのタリバーン政権に匿われていた。彼は、虐殺とテロに満ちた世界を作りだすことで、その社会に存在する暴力性を内側へ封じ込め、外への影響を押さえ込もうとした。そうして、平和な世界をより平和にしようとしたのだ。
2つ目、個人認証システムで彼らの発する利己的生存適応を抑え込むのは不可能であるため、殺す必要がある点。

つまり、彼の目的とは、平和な世界をより平和にすることだ。


【面白いと思ったアイデア】
・テクノロジーは監視社会をもたらし、自由の適応範囲が縮小
・自由は通貨である
・情報社会に対する皺寄せとして地域通貨が顕現する
・仕事だから仕方ない
→この考えが19世紀の夜明けから、虫も殺さぬ凡庸な人間たちからNaziのような残虐性を生み出し、指先の動きのみでユダヤ人の生殺与奪を決定することが罷り通った。この鬼畜の所業が発狂せずに行えたのは、「仕事だから仕方ない」の考えに他ならない。
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