シズヲ

ラスト・ラン/殺しの一匹狼のシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

「時間こそが敵だ」
「無限に思えて――」
「ムダにしてしまった」

ハリー・ガームスはかつて犯罪組織の運び屋として活躍し、現在は一線を退いて孤独な隠居生活を送っていた。引退から9年の歳月を経たある日、彼は今の自分自身を試すべく再び仕事を請け負う……。自動車整備で幕を開ける冒頭から強烈な哀愁が滲み出ていて、直後の海辺での孤独な運転シーンにおいても本作の渋味が凝縮されている。何気ないシークエンスでありながら掴みがとても良い。ジェリー・ゴールドスミスの音楽も寂寥感に満ちていて(時々ちょっと大仰だけど)作中のムードをがっちりと構築している。

主演のジョージ・C・スコットの渋さがやっぱり凄く良いし、ハードボイルドな佇まいから滲み出る“孤独”もまた印象深い。既に初老に差し掛かりつつあっても、チンピラのトニー・ムサンテとは一線を画す“仕事人”として燻し銀の風格を備えているのが実にクール。それでも彼が何処か寂しげに映るのは、「娼婦を抱きながら余生を使っている」など自分が既に人生の山場を越えてしまったことを自覚しているからだと思う。ヒロインから離別を告げられて「知っていたさ」と笑う姿の切なさが愛おしい。

本作はとにかくシャープかつ端的で、アクション映画的側面と70年代のニューシネマ的哀愁を両立させながら大胆に無駄なく進行していく。主人公の人物像を手際良く示す冒頭のシークエンスが顕著だけど、硬派でタイトな展開の中でも“キャラクターの立たせ方”や“ドラマの描き方”が洗練されている。リチャード・フライシャー監督の職人性はやはり卓越しているし、このへんの手腕や本作の作風はドン・シーゲル監督を思わせる。抜けるような青空を映し出す海辺でのシーンや終盤におけるノワール的な夜の屋外のシーンなど、要所要所における撮影の美しさも瑞々しい。

「彼には私達しかいない」という台詞が示すように、仕事の世界に自分の拠り所を見出しているかのような主人公の姿が印象深い。死に場所を見つけられず、それを探したがっていたようにも見える。孤独を抱えた男がひとりの女の存在に触れて少しでも人生を取り戻そうとするけど、結局は断絶を埋められないまま最後まで進んでいってしまう。去り行く二人と横たわる主人公を映し出し、そのまま幕を下ろしていくラストの乾いた余韻が味わい深い。作中で描かれる主人公と愛車の“呼応”もまた印象に残る。作中でのロードムービー的描写やカーアクションのシーンなど、主人公は半ば愛車と一心同体の如く描かれる。“愛車のキーを引き抜くカット”がそのまま“主人公の死”へとリンクする演出、切れ味があってとても良い。
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