うめ

ウェスト・オブ・メンフィス 自由への闘いのうめのレビュー・感想・評価

3.7
 『デビルズ・ノット』を観る前の予習として鑑賞。1993年にアメリカのアーカンソー州ウェストメンフィスで起きた、男児3人が殺害された事件のドキュメンタリー。2時間を超える作品だったが、とても丁寧に事件や調査の展開を追っていたのが良かった。そして何よりこの事件の複雑さに驚いた。

 事件発生当初、容疑者として3人の少年が逮捕され裁判で有罪判決を受け、刑務所で服役していた。だがその逮捕や裁判に疑惑が持ち上がり、やがて3人が無罪ではないかと考える人々によって、3人への支援が広がり始める。同時に、少年たちの弁護人や関係者が事件を再調査する過程で新たな容疑者が浮かび上がってきていた…というのが序盤の展開。ここからさらに事は展開していくのだが、「現実は小説よりも奇なり」と言ったもので、まさにドラマを見ているかのよう。そこらへんの適当な刑事ものを観るぐらいなら、今作を観たほうがいいのでは?と思ってしまうほど、実に複雑な事件。

 この事件はアメリカの事件で起こりうる問題を多く炙り出している。警察のずさんな調査や隠蔽、検察の誘導尋問、マスコミの過剰な報道…事件発生時にこれらの事がなければ、もっと早く「真実」が明らかにされたのかもしれない。

 時が経つにつれ、DNA検査という新たな証拠も登場し、さらに別の証言が次々と加わって別の容疑者が浮上する。どんどん新たな証言が出てくる様を見ていると「何故、事件当時に言わなかったのだ」と思いたくもなるが、証言を持つ者が当時子どもであったことや何より人間が(意識的にせよ無意識的にせよ)「保身」を考えて生きることを考えると、そう簡単に攻められるものではない。だが真実を明らかにするには、その保身を捨てねばならない。真実は誰にも媚びはしない。それどころか多くの人の胸をえぐる。だがそれでも人は真実を求める。たとえ時が経ち真実に埃がかぶり、少しずつ見えなくなってきていても。保身と同様に、真実を求めようとする行為も人間の本能なのかもしれない。

 今作はある展開を一つの区切りとして終わる。だがこの先、真犯人が捕まろうがそうでなかろうが、事件は「終わらない」のだろうなと思った。最後の判事の言葉がそれを表している。この事件は「誰にとっても悲劇」なのだと。子どもを殺された遺族にとっても、冤罪かもしれぬまま服役していた元少年たちにとっても、彼らを支援した関係者たちにとっても。今作も報道もこれで終わりかもしれないけれど、決して「終わっていない」ことだけは忘れてはならない。

 他にも色々思うところがあったけれど(ネット上でのつるし上げやネットと報道機関の関係等々)、ほとんど今作の内容と関係がないのでここまでで。今作は序盤、死体の写真や映像がぼかしなしで登場するので、抵抗がある方にはお薦めできないが、問題なければ是非観て欲しい作品。ただ丁寧に描いている今作でも言及していない点(当初逮捕された少年のうちの一人の病歴など)があるので、ある意味「アピール」ではないかという疑いをうっすらとでも抱きながら観てもらいたいと私は思う。
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