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赤い手帳のakrutmのレビュー・感想・評価

赤い手帳(2011年製作の映画)
4.0
叔父の遺産相続のためにフランスの寒村を訪れた売れっ子ミステリー作家が、偶然に遭遇した地元女性スターの自殺事件を次作のネタにしようと調査していく、ジェラール・ユスターシュ=マチュー監督によるミステリー映画。でも、この映画の見どころは謎解きにあるというよりは、マリリン・モンローをオマージュするような地元女性スター・キャンディスの半生(でも、規模はずいぶん小さいけれど)の描写にある。邦画のタイトルである『赤い手帳』は、マリリン・モンローの日記(ケネディ家の秘密などの全てが書かれていたと言われている赤い手帳)を明らかに象徴しているし、原題の「ププピドゥー」(原題のほうが好き)はまさにモンローの有名なヒット曲の一節である。

このようなマリリン・モンローとの類似に興味を持って多くの人は本作を見るのだろうが、私はちょっと違った。(もちろんマリリン・モンローも理由のひとつであるが。)私の目当ては、主役のミステリー作家を演じたジャン=ポール・ルーヴ。映画の中では脇役でしか見たことがないが、彼の監督作品である『愛しき人生のつくりかた』がとても好きなこともあって、主役を演じている本作は以前から気になっていたのである。

それでも、マイナーな三流映画だと思ってあまり期待していなかったが、地味ながらも予想以上に面白い映画で楽しむことができた。お目当てのジャン=ポール・ルーヴの安定した、ときにはコミカルな演技も素晴らしいが、途中から謎解きの相棒になっていく警官役のギヨーム・グイのとぼけたような演技も良い。ホテル受付のぶっ飛んだ女性を演じたクララ・ポンドも印象に残る。

そして何と言っても、キャンディスを演じたソフィー・カントンの雰囲気のある演技もよい。マリリン・モンローの顔を横に広げたようなカエル顔ではあるが、とても愛嬌がある感じはマリリン・モンローを彷彿とさせる。彼女の人生がマリリン・モンローのそれとダブっていく(作中でもちゃんと解説してくれる)ので、モンローのことを知っているだけ深く楽しめるであろう。冬の雪景色の中で展開される映像も印象的。本映画の舞台となっているスイス国境近くのムートは、フランスにおける最低気温の記録を持っているほどの寒くて雪深い村だそうである。おそらくモンローとは関係ないラストシーンの余韻も心地よかった。
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