藪雄祐

岸辺の旅の藪雄祐のレビュー・感想・評価

岸辺の旅(2015年製作の映画)
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黒沢清監督らしい作風というべきか、物語の優しい雰囲気の中に不気味なイメージ(死)が内在している。人によってはホラー映画のように感じるかもしれないが(とくに蒼井優が登場する、あの場面!)、この作品はあくまでも夫婦の愛とその別れが主題である。

あの世へ旅立てない者の元を訪ねる主人公夫婦、死んでいるはずなのに夫の存在を周囲が認知しているという設定は面白く、物語にどんどん引き込まれていく。

死者との交流、夫婦がお互いの絆を確かめあうときに流れる過剰なまでのオーケストレーションもまた印象的だった。それらは展開としてはなにげない"ワンシーン"のように思える。しかし、そのなにげなさは実はかけがえのない一瞬なのである。瑞希と優介にとってそれは文字通りのものとなる。

瑞希を演じた深津絵里は美しく、大切な人を(再び)喪う女性の辛さ・悲しさが映像から伝わってくる。そんな彼女の前に現れ、旅に誘う優介=浅野忠信の存在感もまた物語にマッチしていた。二人の夫婦がとてもいとおしくて、ラストは本当に切なかった。
藪雄祐

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